入れ子 4

文字数 693文字

「そんな保証は何処にもないぞ。俺は、……鬼車を倒せぬかもしれぬ」
 俺が顔を顰めると、伯労はふふんと笑って俺の顔を覗き込んだ。
「そんなわけ無いわ。言ったでしょ? あんたの中は鳰ちゃんが占めてるんだもの。鳰ちゃんの為だったら、絶対にやり遂げてみせるわ。そうでなきゃ、私が、雎鳩が引く意味がない」
 俺はゴクリと固唾を飲んだ。
「俺が、伯労を喰うたら、雎鳩はどうなるんだ?」
「元通り。それだけよ。雎鳩は雎鳩になる。今の私より、ちょっと真面目ちゃんかな? こんなぶっちゃけた話し方なんかしないわ。もっと奥ゆかしい子だもん。でなかったら、こんな長年あんたを思い続けたりしないし、思いつめて死のうとしたりしないわよ」
「そうか……」
 今の伯労とは、姿は同じでも全然違う人格なのだな。当たり前だが。

「一つだけ、心配なことがあるの」
 伯労の瞳が、翳った。
「仙丹は、贄と同じようなものなのだけど、遠仁を喰い続けた所為で魂と仙丹が馴染んできてしまった。もう、肉が不要になりかけているの。多分、未だもう少しは大丈夫だと思うのだけど余り無茶はしないで」
「え? ……何? どういうことだ、それは」
「そのまんまよ。無茶はするなってこと」
「『丹』の意味とは……贄と同じということは……」

――贄は肉と心をくっ付ける役割をするモノ

「あら……、聞かされてなかったんだ? あんた、死んでるのよ」
「は?」
「魂と肉を丹が繋いでる状態なの。だから、あんたの時間は23歳の冬で止まっている。永遠に……」
「では、不死不滅と言うのは……」
「死んでいる者はこれ以上死にようがないでしょ?」  

――人間はそもそも『丹』の意味をはき違えておるからな
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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