古き物 11

文字数 874文字

「女子と言う生き物は凄いな」
 俺と鸞は顔を見合わせて溜息を付いた。
 梟から念波装置を受け取った雎鳩はたちまちソレに慣れ、あっと言う間に鳰と意気投合した。鳰の怒涛のお喋りに臆せず対抗できるだけで尊敬ものであるのに、それを押し返す勢いがあるのだから凄いの一言だ。

 引っ越し作業の人夫の休憩に合わせて箱膳を囲んだ俺らは、横目で女子2人のやり取りをチラチラとらえながら黙々と箸を進めた。
「ギリギリでも腎が届いて間に合うたから、鳰は管で装置に繋ぎっぱなしを避けられた。人工の心肺で血液を回しておるから、派手に動き回ることは出来ない。精々、短い距離を歩き、話すくらいだ。診療の手伝いや家事も、今の鳰では荷が重い。人手のある城下に来れば、雇い入れることが可能であるから鳰の心苦しさもいくらか和らごう」
 梟が目を細めて呟いた。
 中途半端に肉を得た為に出来なくなることもあるのか。気の毒に……。

「ねぇ! 梟様! このまま鳰ちゃん、うちの屋敷に遊びに来てもらっていい? ここに居たって、手伝えるわけじゃないんでしょ?」
 雎鳩がこちらに向いて言った。
(皆さまが忙しそうにしておられるのに、私はつくねんと座して居るだけですから。皆さまに申し訳ないのです。装置も安定しておりますし、ここが落ち着く夕方まで雎鳩様の下におれば、安心でございましょう?)
「まぁ、それはそうであるが……」
 梟が恐縮して言葉を濁すと、雎鳩が言葉を重ねた。
「此れも、後援者の仕事! ご遠慮なさらずに鳰ちゃんを預けてくださいませよ! 此処まで可愛いと色々してあげたくなっちゃう。私が連れて行きたいんです!」
 うわー。俺の時と同じく着せ替え人形にして遊ぶ気であるな。
(私もちょっと興味ありますし! だって、白雀殿が違和感なく美女になるのですよ? 如何様な化粧であるのか体験してみとう御座います! ついでに、その御胸がどうなっているのかも!)
「ああ、それは余計である!」
 俺が慌てて抗議すると、女子2人で口元を押さえて笑い転げた。
 隣にいた鸞が、俺の腕をポンポンと叩いて眉を下げて首を振った。
 諦めろってか?
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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