第220話 渋柿喰わせる悪い爺

文字数 1,420文字

・12月4日 渋柿喰わせる悪い爺・

この言葉、小説なんかでは良くお目にかかるけど。

『筆舌に尽くしがたい。』

……俺は今、それを身をもって体験している。


「ん~~~~~! #$%&くぁすぇdrftgyふj!!!!」

口を押さえて身悶える俺、いつもは怒ったようにむっとした顔をしているくせに、今はやたらと楽しそうに顔を綻ばせている花井の爺さん。

うわあああ、口の中が! 粘膜が! 剥がれる。ポロポロとピーリングされてしまう~~~!

顔を真っ赤にし、涙目になっているであろう俺に、明るい声で爺さんはのたまう。

「そりゃ渋柿だったか。毒見、ご苦労さん」

知ってたくせに。某水戸のご老公のように莞爾と微笑むその顔が憎い。何てもん食べさせるんだ、爺さん!

「みず、みずください!」

やっとの思いで声を出すと、花井の爺さんは、かっかっか、と笑いながら、既に用意してあったらしい甘い抹茶ラテを出してくれた。飲むのに程よい温度が、爺さんの確信犯であることを疑いのないものにしてくれる。

爺さん。今日は依頼された天井照明の蛍光灯交換をしたら、すぐ帰る。いつものサービスの肩たたき、してやんない。


渋柿は、強烈だ。





・12月26日 公園の落ち葉掃き・

このところ、毎日同じ仕事をしている。町内会から依頼された公園の落ち葉掃きだ。

毎年何人かの有志でやっていたらしいのだが、今年は、転んで骨折、ぎっくり腰、六十代だけど四十肩、インフルエンザで寝込んでしまったなどなど、動けない者が続出。自力での作業が無理になったらしい。

お陰で仕事にありつけた俺にはありがたいことだが、顔見知りの爺さん婆さんの体調不良は心配だ。

十日ほど前、銀杏の実を大量に拾った。鼻の曲がりそうなほど臭いあの果肉を取るため、土に埋めてある。そろそろ大丈夫かな? 今日の作業が終わったら掘り出して、洗って乾かしたら、見舞いがてら皆の家を回ってみようか。

細かい仕事がもらえるかもしれないし。

俺は地域に密着した何でも屋。お得意様にはサービスしなくちゃな。





・12月27日 魔女の一突き・

西洋では、ぎっくり腰は「魔女の一突き」とも呼ばれるらしい。
ちなみに、これは元義弟の智晴からの豆知識だ。

魔女に腰を突かれた植木屋のハルさんの様子を見に行ったら、冷蔵庫の前でにっちもさっちもどうにもブルドッグ、いや、にっちもさっちもいかなくなってしまっていた。ドアを開けるのに、上体を屈め、手を伸ばした拍子に激痛に襲われ、動けなくなったらしい。

脂汗を垂らしながらうんうん唸るハルさんをおぶって、近くの整形外科に走った。手当てをしてもらい、痛み止めの薬をのんだら、だいぶマシになったらしい。やれやれ。

ハルさんからは、お礼に晩飯を奢ってもらった。トンカツ屋「とんとん拍子」(ヘンな店名)の上カツ丼は、美味かった。

金にはならないが、一食分浮いたからいいということにしておこう





・12月28日 焼き芋したいな・

公園の落ち葉もめっきり少なくなった。
箒が軽くなってありがたいが、……そろそろお役御免かな。箒のちびた穂先見ながら思う。

せっかく大量の落ち葉の山が出来るんだから、一度でいいから焼き芋を作ってみたいものだ。だけど、ダイオキシンがどうのこうので、燃やしちゃいけないんだよなぁ。

この公園の場合、柵で囲った堆肥作成場(?)がある。さすがに公園から出る落ち葉の全ては無理だが、半分以上はまた元の土に還る。

いい土は、木を元気にするそうだ。

さて、今日も葉っぱを集めるか。
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