第287話 絶対居眠ってはいけない場所

文字数 1,308文字

・10月27日 絶対居眠ってはいけない場所

なんだろう。とってもふわふわとしてて、暖かくて。

 ── こら

今日はいきなり真冬並みに冷えたから、玄関フェンスのペンキ塗りの仕事は辛かった。寒いのなんの。天気は良かったんだけど……。

 ── こらっ

塗る前に、錆を落とすのも大変だったなぁ。ヤスリやら目の荒いサンドペーパーで擦って、擦って……それやってる間は身体も温まったけど、暑くなるってほどでもなくて。

ああ、本当に暖かい。頭がぼんやりしてくる。あんまり気持ちよくて……。

 ── こらーっ!

「え? って、うわっ!」

ばしゃっ! ごぼっ!
げほげほげほっ!

……
……

あっぶなー。俺、風呂で居眠りしてたみたいだ。……びっくりした。怒られなかったら、眠り込んだままうっかり溺れ死んでたかも。って、え?

「さっきの声、誰だ?」

呟いた声が狭い風呂場に響いたけど、当然のことながら、ここには俺の他に誰もいない。

……
……

はっ! またぼんやりするとこだった。早く上がろう。





・10月29日 台風接近

台風が近づいてる。

風も強くなってきたし、空もどんより。夕方あたりから雨だというので、今日頼まれてたグレートデンの伝さんとドーベルマンのドンちゃんの散歩は、早めにさせてもらった。

買い物なんかの依頼も出来るだけ早く済ませて、今は自宅(兼事務所)。

「台風のお伴(?)にはコロッケが定番」というので(何でだろう)、商店街の肉屋さんで揚げたてを買ってきた。あと、刻みキャベツとゆで卵のサラダ、玉葱と薄揚げの味噌汁でも作るか。

ああ、外の雨が酷くなってきた。台風の進路が逸れてくれればいいんだいけど……。





・10月30日 台風逸れて

早朝は少し雨が残ったが、それ以降は、どんよりとした雲が空を覆っているだけになった。どこ行ったんだ、台風。

……俺の住んでいる地方からは、見事に逸れていったみたいだな。いや、別に台風に直撃してもらいたかったとかいうことはないんだけど。

それにしても、蒸し蒸しする。明後日から十一月だというのに、何だ、この生温い暖かさ。思わず、シャツの下に着込んだヒートテックの下着を脱いで、普通のにしたよ。昨日は寒かったのになぁ。

台風の被害の無いのはいいことだけど、奄美大島とか大丈夫なんだろうか。遠くインドネシアではつい先日また津波が沿岸を襲ったそうだし、何だかなぁ。一体、何が起こってるんだろう、とか思ってしまう。

……尖閣問題で神様がお怒りとか? うーん、オカルト。





・11月3日 文化の日

今日は十一月三日。文化の日。

……ヒマだ。

いつもは世間が休みの日の方が忙しいんだが、何でだろう、ヒマだ。
そんな日もあるさ!と思ってはみるものの、ちょっとへこむ。こんなに空は青いのに。

気分を変えようと、ふと思いついて自分で髪を切ってみることにした。最近、忙しくて床屋に行けなかったんだよな。

…………
…………

餅は餅屋、という言葉が身に沁みた。何だろう、鏡に映るこのイキモノ。カラスに髪を毟られたみたいじゃないか。

やっぱり床屋に行こう。そう思ったが、──今日はいつものあの店定休日だった。

俺の、馬鹿~~~!


『小人閑居して不善をなす』、何故かそんな言葉が脳裡を過ぎった俺だった。
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