第189話 年末から大晦日

文字数 1,613文字

十二月二十六日 たこ焼きひっくり返す

昼飯代わりに、シンジのたこ焼きを買いに行った。特性ソースの香りが胃袋をダイレクトに刺激する。

冷めてもレンジでチンすればいけるけど、焼きたては格別。屋台の真ん前は邪魔になるから、傍の三角公園の入り口のポールに腰掛けて食べようと移動したら。

その手前の段差に蹴躓いてコケた。
たこ焼き、船ごとひっくり返して思わず涙目。

しょんぼりと後片付けしてたら、見かねたのか、シンジがもうひと船サービスしてくれた。「案外どんくさいっすね」と苦笑されたけど、その通りだから何も言えない。

今日のたこ焼きは、格別に美味かったように思う。サンキュー、シンジ。寒かったけど、身体も心もあったまったよ。

なんせ、年末で懐が超ブリザードだからな……くっ!

後で、野田の爺さんにもらったミカンを差し入れに行った。





12月29日 何でも屋も走る師走

正月前は忙しい。師ではないけど忙しい。買い物の依頼も増えるし、年末年始の休みに入ってくると、遠方の実家へ帰ったり、旅行に出かけたりするお宅からペットの世話を頼まれることも多い。

買い物その他の依頼の合間を縫って、ペットたちの世話をする。一応スケジュール組んでみるけど、物事は予定通りに行かないもんだ。

幸田さんちのマメ柴、ポチが体調崩した。帰省途中の幸田さんとは何とか連絡取れたんで、これから獣医さんに連れていく。

段ボール箱の中で力なく項垂れ、声さえ上げないポチが痛ましい。

頑張れ、ポチ。幸田さん、帰省を取りやめて帰ってくるそうだ。

そう言いながら耳の後ろをそっと掻いてやると、ポチはゆるゆるとしっぽを振ってくれた。

独りにされるのが初めてらしいから、寂しかったのかもしれないなぁ。





12月30日 アンパンと牛乳

忙しすぎて、何が何やら。メシ食う暇もなかった。

世話を頼まれたペットたちの世話(犬の場合は散歩含む)をしたり。
シーリングライトの中身の交換を頼まれたり。
外れた樋を修理したり。
遅めの大掃除の手伝いを頼まれたり。
正月用の買い物の追加を頼まれたり。

猫の手も借りたいと思ったけど、俺自身が顧客様からするとその<猫の手>だからなぁ……。

あー、腹減った。こういう時は、アンパンだ。手っ取り早くカロリー補給。一緒に買った瓶入りの暖かい牛乳を飲み干すと、途端に身体が温まって元気が出てくる。

さてと。次の依頼は何だっけ。受けた仕事はきっちりこなすぞ! 頑張れ、俺。負けるな、俺。自分で自分を励ましつつ足早に歩き出すと、空にはぽっかりアンパンのような月が出ていた。





12月31日 大晦日

今日で今年も終わり。明日は新年。

大晦日ともなると、仕事も留守宅ペットの世話くらいで、後は却って暇になる。昨日までの忙しさは何だろうって思うくらい。

……ちょっと寂しいな。

娘のののかは、冬休みに入ると同時に元妻に連れられて旅行に行ってしまった。北海道だったかな……テロだのハイジャックだの、このところ海外は物騒だから、今年は国内にするって元妻は言ってた。

パパもいっしょに行ければいいのに、とののかは不満そうだったけど、パパ、仕事があるからなぁ。それに、……大人には色々あるんだよ、ののか。

はぁ。

ま、いいや。年越し蕎麦でも食べるか。スーパーの閉店前投売りで天ぷら蕎麦のセットが凄く安かったんだよな。最後の一個をゲットしたぜ。ふっ。まあ、それしか買えなかったんだけどさ。

でも。

吉井さんからは餅もらったし。
小野田さんからは黒豆と酢レンコン。
安倍さんからは数の子。
久野さんからは棒ダラ。
山田さんからはカマボコ。
野本さんからは昆布巻きと伊達巻。
……慈恩堂店主からは、清酒一本もらった。

俺、当分食い物には困らない。
来年もがんばろっと。

あ、ラジオから、除夜の鐘。
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