第114話 ある双子の兄弟 序 酔芙蓉
文字数 757文字
八月二十七日。
公園の入り口に、白い芙蓉の花が咲いている。
朝は咲き初めの瑞々しい花弁を広げているが、夕方には項垂れるように萎んでいる。こういうのを無常というのだろうか。
同じ名を持つ、強かな彼を思い出した。女装が趣味で、仕草も立ち居振る舞いも完璧な絶世の美女になって見せてくれるけれど、実はとても男らしい。夕べに萎れた芙蓉の花も、明日にはまた新しい花を開かせる。諦めない、その強さに似ているかもしれない。
一緒に歩いていたアキラくんが俺を見上げて言う。
「あれ、ふよう、っていう花だよね?」
今年小学三年生のアキラくんは、これからそろばん塾に行くのだ。今日はその送り迎えを頼まれた。
「良く知ってるね、アキラくん。一日で萎れてしまうけど、きれいな花だね」
うん。とアキラくんは頷く。
「じーちゃんが好きなんだ、あの花。うちには白いのとピンクのがあるよ」
「へえ。じゃあ、今の時期はきれいだね」
紅白の芙蓉かぁ。
「ねぇねぇ、おじさん知ってる?」
「ん?」
「花なのに、お酒を飲むふようがあるんだって。じーちゃん、来年はそれ植えるって言ってた」
酒を飲む芙蓉?
……そういえば人間の芙蓉は、女装バーのマスター(いや、ママか?)だったっけ。酒には強いらしく、あまり酔っ払ったところは見たことないけど。
「よっぱらいの花なんだって。父さんみたいに酔っておどったりするのかなぁ?」
そうだったら面白いねぇ、とアキラくんに答えながら、俺はつい怖い情景を想像してしまった。
女装のエキスパートのあの芙蓉が、酔っ払って盆踊り。彼の息子で俺の娘と同い年の夏樹くんと、彼の双子の弟、葵も一緒に──
……想像とはいえ、こんなことを考えたことを芙蓉に知られたらと思うと、一瞬背筋が冷たくなった。
公園の入り口に、白い芙蓉の花が咲いている。
朝は咲き初めの瑞々しい花弁を広げているが、夕方には項垂れるように萎んでいる。こういうのを無常というのだろうか。
同じ名を持つ、強かな彼を思い出した。女装が趣味で、仕草も立ち居振る舞いも完璧な絶世の美女になって見せてくれるけれど、実はとても男らしい。夕べに萎れた芙蓉の花も、明日にはまた新しい花を開かせる。諦めない、その強さに似ているかもしれない。
一緒に歩いていたアキラくんが俺を見上げて言う。
「あれ、ふよう、っていう花だよね?」
今年小学三年生のアキラくんは、これからそろばん塾に行くのだ。今日はその送り迎えを頼まれた。
「良く知ってるね、アキラくん。一日で萎れてしまうけど、きれいな花だね」
うん。とアキラくんは頷く。
「じーちゃんが好きなんだ、あの花。うちには白いのとピンクのがあるよ」
「へえ。じゃあ、今の時期はきれいだね」
紅白の芙蓉かぁ。
「ねぇねぇ、おじさん知ってる?」
「ん?」
「花なのに、お酒を飲むふようがあるんだって。じーちゃん、来年はそれ植えるって言ってた」
酒を飲む芙蓉?
……そういえば人間の芙蓉は、女装バーのマスター(いや、ママか?)だったっけ。酒には強いらしく、あまり酔っ払ったところは見たことないけど。
「よっぱらいの花なんだって。父さんみたいに酔っておどったりするのかなぁ?」
そうだったら面白いねぇ、とアキラくんに答えながら、俺はつい怖い情景を想像してしまった。
女装のエキスパートのあの芙蓉が、酔っ払って盆踊り。彼の息子で俺の娘と同い年の夏樹くんと、彼の双子の弟、葵も一緒に──
……想像とはいえ、こんなことを考えたことを芙蓉に知られたらと思うと、一瞬背筋が冷たくなった。