第303話 彼らは強く信仰する

文字数 762文字

・2月2日 彼らは強く信仰する

この時期、それは絶大な信者数を誇る。

宇野さんちのみーちゃんも。
笈田さんちのジュン君とユキちゃんも。
齋藤さんちのミカンちゃんとシマちゃんとブッチー君も。

みんなみんな、それに向かって行儀よく座り、敬虔な祈りを捧げていると聞く。

「冬になると、毎年これですよね」

齋藤さんが苦笑いする。俺もそれに頷いた。

「そうですね。お隣の鴨志田さんちのルーク君も、ちーちゃんと並んで拝んでいるそうですよ」

ルーク君は芝の雑種、ちーちゃんは去年の秋にルーク君がどこかから拾ってきた元野良猫。犬からも猫からも絶大な信仰心を集めるそれは……。

ストーブ。

灯油ストーブでも、電気ストーブでも、はたまた石油ファンヒーターでも変わりは無い。それらは全て冬の犬猫のご神体だ。彼らはストーブの正面に陣取り、そこからじっと動こうとしない。

「うちの祖母なんかは、これを<猫のストーブ参り>って呼んでるんです」

俺は思わず吹き出した。

「言い得て妙というか……お祖母さん、ユーモアのセンスがありますね」

「昼間、スイッチを切ってると、こいつら、着けろ、と文句言ってくるんですよ」

もう、人間と猫のどっちが偉いんだか分かりませんね、と楽しそうに嘆く齋藤さん。

猫にストーブを取られて、人間の方が寒い思いをするのがこの時期のお約束。やつらは人間を下僕と思っている、という説(?)があるけど、あながち間違いではないんじゃないかと思う、節分前夜。

齋藤さんは今年度の町内会世話役。これから明日の豆まきボランティアの段取りについて話し合うんだ。促されてホットカーペットの上に座ると、何故かミカンちゃんがストーブの前を離れ、俺の膝に乗ってきた。すぐに丸くなって寝てしまう。

ミカンちゃん、ストーブ参りに飽きたのか? 10キロもある君を乗せてると、膝が痺れるんだけど……。
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