第334話 脱走わんこはお座敷犬

文字数 742文字

・9月24日 脱走わんこはお座敷犬

雨は、夕方から降り出した。

接近する台風の影響か、朝から空はどんよりしていて午後からさらに雲が分厚く真っ黒になったけど、かろうじて降らずにいてくれた。助かった。

雨の中、脱走ペット探しをするのは大変だ。雨に打たれればペットも消耗するし。──ったく、もう! お前だよお前、マルチーズのマルちゃん。お座敷犬のくせに何でお外に出ちゃうんだよ!

マルちゃんは幸いすぐに見つかった。いつもご主人と散歩に行く公園の百日紅の木の下に蹲ってた。脱走は今回で五回目。どうやらマルちゃんは自由を愛するわんこなようだが、お外は車とか深い溝とか叢のダニとか危険がいっぱいなんだよ! ……心無い人もいるしな。

心配してたご主人の東陽さんに、マルちゃんを渡して一安心。自分が悪いことをしたというのを一応は理解しているのか、捕獲用のケージから出してもまるで借りてきた猫並みに神妙にしているマルちゃん、れっきとしたイエイヌ、カニス・ファミリアリス。

「今度脱走したら、お家に入れないからね!」

なんて東陽さんはマルちゃんに言って聞かせているけど、当の本犬にそんな言葉が理解出来るはずもなく。怒りながらも東陽さんが与える好物のジャーキーを、ぺろりと食べてしまってる。

……もしかしたらマルちゃんは、脱走から帰るたびにいつもより沢山もらえるジャーキーが目当てで脱走するのかもしれない。パブロフの犬ならぬ、ジャーキーのマルちゃん。

もしも六回目の脱走があったら、このことを東陽さんに指摘してみよう。

念の為、マルちゃんを獣医さんに連れて行くという東陽さん宅を辞し、降り出した雨の中、いったん帰途につく。この後は子供の塾の送り迎えをして、今日の仕事は終わり。

時間待ちの間、娘のののかにメールでもしてみるかな。
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