第186話 猫たちの不思議

文字数 1,583文字

10月18日。 野良で生きる猫よ……

朝と夕方は、本当に冷えるようになった。昼間は……気温はそうでもないんだろうけど、陽に当たってると暑い。

そんな微妙な日和の、十月の昼下がり。日当たりのいい地べたで、野良猫が寝てた。

ただ寝てるだけならよく見かけるけど、でっぷりと太ったサバトラのこの猫、仰向けで熟睡してた。腹出して。ついでに、タマタマも丸見えだ。

……野良の危機感とか、生存本能とか、そういう色んなものを忘れてるとしか思えないその姿。こいつ、これからも無事に野良をやっていけるんだろうか、とちょっとだけ心配になった。

おい、サバ。せめて歩行者に踏まれないよう、気をつけろよ。





11月14日。日向の猫はハート型

今日は朝から天気が良くて、風も無いから日差しは暖かい。

そんな午後。野良猫が二匹、ホームセンターの駐車場の隅っこで日向ぼっこしてた。きょうだいなのか、柄が良く似てる。

黒いアスファルトが温かいらしく、二匹とも良く寝てる。何故か背中合わせ。で、気づいた。こいつらの背中の柄、合わせたら見事なハート型。

思わず吹いてしまった。

驚いたのか、さっと身を起こす二匹。とたんにハート型が割れて……これまた見事な失恋マークに、また吹いてしまった。





11月24日。 猫たちの不思議

平日の昼下がり、駅裏の不法駐輪の群れ。

あっちのミニバイクのサドルに一匹。
こっちの自転車の籠に一匹。
そっちのママチャリの荷台にも一匹。

様々な柄の野良猫たちが、互いに我関せずといった様子で思い思いに寝ている。寒そうに、足を体の下に縮めるようにして。

……いつ見ても、シュールだ。

彼らは何故、わざわざ自転車やミニバイクに群がるのだろうか。近くの空き地に行けば、枯れた雑草が干草のベッドみたいになってるのに。今日みたいな天気の良い日は、隙間だらけの自転車のカゴなんかで寝るより、断然あったかいと思うんだけどなぁ。

猫って、不思議だ。





11月26日。 光学迷彩猫

朝晩がぐーんと寒くなって、銀杏並木がきれいな黄金色を見せるようになった。晴れた日なんかは、まるで輝くように美しい。

美しい。見てるぶんには。
──なんたって、本日のメインの仕事は落ち葉掻き。

はらはらわさわさ大量に落ちてくる葉っぱは、下のほうが昨日の雨のせいで湿っていて重い。かなり力がいる。背中にじわりと滲む汗。後でよく拭いておかないとな。

そんなことを考えながら、ぼーっと落ち葉を掻き寄せてたら……。

「うわっ!」

俺は腰を抜かしそうになった。何でって、いきなり落ち葉の塊が跳ねて飛び出して……え? 落ち葉の妖怪? 落ち葉が命持っちゃった?

怖いのに目が離せず、じっと見つめる。と同時に、力が抜けた。それが何か分かったんだ。

猫だ。三毛柄の。落ち葉の黄色と太陽の織り成す光と影、それが三毛柄にマッチ(?)して、まるで天然の光学迷彩。

ったく、驚かしやがって、このプレデターキャットめ。





12月10日。 猫の足跡養生注意

新車を迎えるべく、新堂さんちでは庭の半分を潰し、屋根付きの車庫を造ったらしい。土台に塗られたばかりのコンクリートは、見事に平らで滑らかでクリーミーだ。……我ながらちょっと意味不明。

職人の技に感動していた俺だったが……、つい、それに気づいてしまった。まだ固まりきっていないコンクリートに残された、その痕跡に。

スペースのど真ん中。ぽつん、とひとつだけの梅鉢マーク。猫の、足跡。
その前にも後ろにも、足跡は続いていない。

何だ、このミステリー。

もしかして、猫にも一本ダタラの怪物がいて、これはその仕業なんだろうか。
そういえば、果ての二十日が近いなぁ。十二月ももう中旬。月日が経つのが本当に早い。
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