第336話 留守番猫の世話 後編

文字数 1,493文字

その場で合鍵を預かって、朝夕の餌と水の交換と、猫トイレの掃除を請け負った次第。

さてさて、鈴木さんちのにゃんこ三兄弟は今日も元気にしてるかな。三匹が三匹とも似たようなサバトラ柄をしてるから一見きょうだい猫かと思うけど、実は全然血縁関係が無いんだそうだ。

サバ1のシマちゃんは鈴木さんが近所で拾って、サバ2のトラちゃんは亡くなった奥さんの実家で保護したのを連れてきた子、サバ3のサンバちゃんは息子さんが独り暮らしする名古屋のアパート付近で拾った子らしい。

それぞれ全く違う場所にいたのに、揃ってみれば瓜二つならぬ三つ。「何か縁があったんでしょうね」と鈴木さんは苦笑いしてたけど。

「にゃーん」

一番人懐こいのはサンバちゃん。俺が行くと、必ずすりすりと愛想しに来てくれる。

「おはよう、サンバちゃん。すぐゴハンあげるからね。先に水換えようか。ちょっと待っててね」

話しかけながら手早く三匹ぶんの水入れの水を交換し、猫缶を開けて三つの餌入れに均等に中身を入れてやる。用意が整う頃には、シマちゃんもトラちゃんも出てきて、ちょっとだけ俺のことを警戒しながら食事を始める。

三匹が食べてる間に、猫トイレの掃除。

まずはウンチを取る。三匹もいるから一日ぶんとしても多いな。鈴木さん、出がけに砂を取り替えたみたいだから、それ以外はそんなに汚れてない。ここのはトイレ砂を入れるところが簀の子になってて、下のトレイにシートを敷くタイプ。うちでも居候の三毛猫に同じトイレを置いてやってるから、手馴れたもんだ。

もう一ヶ所に置いてあるトイレもきれいにして、下のシートを取り替える。よし、ちゃんとシッコしてるな。ふう、やれやれだ。ゴミは明日のゴミの日に出すとして、今日のところは言われた通りに猫トイレ用のゴミ箱に入れておく。

洗面所で手を洗わせてもらって戻ると、サバ兄弟の食事も終わったらしく、思い思いの場所で口の周りをぺんぺろ舐めたりついでに顔を洗ったりしている。

見ると、三匹とも半分くらいしか食べていない。

「よく食べるって聞いてたのにな……やっぱり、急にお留守番になって寂しいのか?」

「にゃー」

俺の問いに応えてくれたのはサンバちゃんだけ。シマちゃんとトラちゃんはドアの隙間からするんと抜け出し、どっかへ行ってしまった。

「なーん」

愛想のない兄弟でごめんね、というみたいに、サンバちゃんは俺の脚にすりすりとしてくれた。緩いS字に立てた尻尾が揺れる。

「よしよし、サンバちゃん」

俺はサンバちゃんの緑色の首輪の下を掻いてやる。気持ち良さそうに目を細めてゴロゴロ言ってくれるから可愛い。

「また昼にも来るから。その時にまたゴハン入れてやるからね。ちゃんと食べとけよ」

「なぉーん」

鳴き声を背に、預かった鍵でしっかり玄関ドアをロックし、門扉の鍵も掛ける。

よし。次の仕事行くか。寺井さんちで草刈って、福本さんちで模様替えの手伝いして、黒田さんは買い物代行だな。午後からは何だっけ、えーと……。

……あの恐ろしい御嶽山の噴火災害から、もう一週間経ったんだなぁ……。日々に追われて忘れてしまいそうだけど、ふとした時に思い出す。忘れられるわけがない。

昨日会ったばかりの人と、翌日には二度と会えなくなる。ついさっきまで元気だった人が、突然命を奪われる。

それは俺の両親にも、弟にも起こったことだ。突然の死を突きつけられた本人が一番辛い。それは分かってる。だけど、残された者も長く辛い思いをすることになる。その苦しみはいつまで続くのか……。

「鈴木さんの息子さん、無事で良かったなぁ」

それだけ呟いて終わりにする。
残された者は、残された者に出来ることをすればいいんだ。
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