第197話 猫とアスパラガス
文字数 2,346文字
・四月十二日 花粉症?・
風邪はまだ治らない。
熱はないみたいだけど、鼻水がずるずると。
もしかして、俺、花粉デビュー?
イヤなデビューだな。ま、いいや。今日も駅前のティッシュ配りの兄ちゃんにいっぱい配ってもらったし。……俺、そんなに鼻水が辛そうに見えたのかな。商店街では、買い物帰りの見知らぬオバ、いや、奥様に、花粉用マスクをもらってしまった。試供品だというけど、申しわけないなぁ。
今日の依頼は食材の買い物。風邪をうつしちゃ悪いし、買ったものを渡したら、すぐにお暇しよう。いつもは美味しいお茶をいただいて帰ってくるんだけど。
帰りに公園の前を通ったら、雨に流されてきたらしい桜の花びらが堆積(?)している場所があった。淡いピンクもすっかり色が変わってしまっている。
花びらはやがて土に還り、木の養分となる。そして来年、木はまた花を咲かせて……。
うまく言えないけど、命の循環みたいだ。自然て有り難いなぁ。
・四月十四日 風邪は治ったけれど・
ようやく風邪が治った、ような気がする。目覚め爽やか、メシも美味い。たとえそれがコンビニ弁当であろうとも。……まあ、ちょっと油っこいし、味も濃いかもしれんが。
それは問題じゃない。コンビニ弁当ってのはそういうもんだ。
問題なのは……。
せっかく元気になったのに、今日は何の依頼もない。大丈夫か、俺?
……明日はきっと何かある、はず。
ん? 明日のジョー? 明日は~ きぃっと~ って、歌ってる場合か、俺。
燃え尽きてもいないのに。
む、虚しい。
・四月十七日 猫とアスパラガス・
屋上に設置しているプランター菜園で、アスパラガスが芽を出した。一昨日見た時には影も形もなかったのに、いきなり小さな緑のタワーが土から突き出ているから、びっくりした。
アスパラガスは、植えてから三年ほど経たないとダメだと聞いていたけど、そうでもないのかな。だけど、あんまり細いので、収穫する気になれない。今年は鑑賞するだけにしておこう。
と、思っていたのに、勝手に棲みついている三毛猫が、穂先のところを齧っているのを目撃してしまった。目が合ったら逃げてしまったが。
ま、相手は猫だからな。
午後からは大雨で、窓ガラスに小川が出来るほど。この雨がプランター菜園に吉と出るか凶と出るか。
さて。雨の日のペット散歩の依頼をこなしてくるか。こんな日は外に出るのを嫌がる犬もいるから、無理はさせないようにしよう。グレートデンの伝さんは……これくらいの雨、ものともしないだろうな。散歩から帰ったら、濡れたところを念入りに拭いてやろう。
・四月十九日 桜餅・
今、公園では八重桜が満開だ。
……八重桜を見ると、桜餅が食べたくなるのは何故だろう。
・四月二十一日 毛虫・
八重桜は花盛りだが、ソメイヨシノはそろそろ完全に青葉衣を纏い終える。……そうなると、毛虫のお出ましだ。ほとんどがアメリカシロヒトリ。何でも屋の俺に、その駆除を依頼する人も多いが……。
スミチオン系の農薬を使わないといけないからなぁ。扱い方を知ってる人間でないと、危ない危ない。周囲への影響も考えないといけないし。
ということで、申し訳ないけど毛虫駆除の依頼はお断りしている。
どうしても、という場合は……。
割り箸と熱湯入りのバケツの出番だ。効率は悪いが、取らないよりはマシになる。一寸の虫にも五分の魂というけれど。
すまん、毛虫どもよ。お前たちを放置すると、来年花が咲かないんだ。
南無阿弥陀仏……。
合掌。
・四月二十三日 ダックス・カルッテット?
今日は、葉山さんちのミニチュアダックスフント、月ちゃん、雪ちゃん、花ちゃん、風くんの夕方散歩を請け負った。
いつも葉山さんと一緒に歩いている道を、四匹は整然とした二列縦隊で歩いていく。いつもながら、躾の良いやつらだ。だけど、葉山さんご夫婦以外にこの四匹を同時に散歩させることが出来るのは、実は俺だけらしい。うーん。何でだろ? 元から犬猫には好かれる傾向はあるけど。
以前、元義弟の智晴にその話をしたら、「仲間だと思われてるんじゃないですか?」とぬかしやがった。ふん。
公園前で、グレートデンの伝さんとその飼い主の吉井さんに出合った。伝さんは小さいやつらにやさしい。ダックス・カルテット(?)も、伝さんと犬同士のコミュニケートをするのが楽しそうだった。
その光景に、吉井さんもうれしそうに目を細めていた。吉井さんにとっては、子供や孫の感覚なんだろうか。
夕方から天気が怪しくなってきたが、お散歩タイムに雨が降らなくて良かったな。
・四月二十四日 ペットのお世話はじゃんがりじゃがりこ・
もうすぐ世間はゴールデンウィーク。この時期、自由業の俺にとっても黄金週間となる。なんとなれば、ペットの世話の依頼が増えるからだ。
今年は飛び石連休ということもあり、長く家を空けるという人は少ないが、日帰り旅行でも、朝早く出て夜遅く帰って来るとなると、犬の散歩も難しい。ということで、何でも屋の俺の出番だ。
犬猫以外では、飼い蛇の給餌を頼まれることもある。
山田さんちのニシキヘビ、錦ちゃん(キンちゃん、だ)、元気かな。大人しくて良い子だが、巻き付かれるのはちょっと……山田さんは、錦ちゃんは俺のことを気に入ってるって言ってたけど。何でも、蛇は体温で人を識別するのだそうだ。
錦ちゃんに餌の冷凍マウスを与えるのはいいが、その後で大伴さんちのジャンガリアン・ハムスター、じゃがりこん(そういう名前なんだ)のつぶらな瞳を見るのは、辛い……。
風邪はまだ治らない。
熱はないみたいだけど、鼻水がずるずると。
もしかして、俺、花粉デビュー?
イヤなデビューだな。ま、いいや。今日も駅前のティッシュ配りの兄ちゃんにいっぱい配ってもらったし。……俺、そんなに鼻水が辛そうに見えたのかな。商店街では、買い物帰りの見知らぬオバ、いや、奥様に、花粉用マスクをもらってしまった。試供品だというけど、申しわけないなぁ。
今日の依頼は食材の買い物。風邪をうつしちゃ悪いし、買ったものを渡したら、すぐにお暇しよう。いつもは美味しいお茶をいただいて帰ってくるんだけど。
帰りに公園の前を通ったら、雨に流されてきたらしい桜の花びらが堆積(?)している場所があった。淡いピンクもすっかり色が変わってしまっている。
花びらはやがて土に還り、木の養分となる。そして来年、木はまた花を咲かせて……。
うまく言えないけど、命の循環みたいだ。自然て有り難いなぁ。
・四月十四日 風邪は治ったけれど・
ようやく風邪が治った、ような気がする。目覚め爽やか、メシも美味い。たとえそれがコンビニ弁当であろうとも。……まあ、ちょっと油っこいし、味も濃いかもしれんが。
それは問題じゃない。コンビニ弁当ってのはそういうもんだ。
問題なのは……。
せっかく元気になったのに、今日は何の依頼もない。大丈夫か、俺?
……明日はきっと何かある、はず。
ん? 明日のジョー? 明日は~ きぃっと~ って、歌ってる場合か、俺。
燃え尽きてもいないのに。
む、虚しい。
・四月十七日 猫とアスパラガス・
屋上に設置しているプランター菜園で、アスパラガスが芽を出した。一昨日見た時には影も形もなかったのに、いきなり小さな緑のタワーが土から突き出ているから、びっくりした。
アスパラガスは、植えてから三年ほど経たないとダメだと聞いていたけど、そうでもないのかな。だけど、あんまり細いので、収穫する気になれない。今年は鑑賞するだけにしておこう。
と、思っていたのに、勝手に棲みついている三毛猫が、穂先のところを齧っているのを目撃してしまった。目が合ったら逃げてしまったが。
ま、相手は猫だからな。
午後からは大雨で、窓ガラスに小川が出来るほど。この雨がプランター菜園に吉と出るか凶と出るか。
さて。雨の日のペット散歩の依頼をこなしてくるか。こんな日は外に出るのを嫌がる犬もいるから、無理はさせないようにしよう。グレートデンの伝さんは……これくらいの雨、ものともしないだろうな。散歩から帰ったら、濡れたところを念入りに拭いてやろう。
・四月十九日 桜餅・
今、公園では八重桜が満開だ。
……八重桜を見ると、桜餅が食べたくなるのは何故だろう。
・四月二十一日 毛虫・
八重桜は花盛りだが、ソメイヨシノはそろそろ完全に青葉衣を纏い終える。……そうなると、毛虫のお出ましだ。ほとんどがアメリカシロヒトリ。何でも屋の俺に、その駆除を依頼する人も多いが……。
スミチオン系の農薬を使わないといけないからなぁ。扱い方を知ってる人間でないと、危ない危ない。周囲への影響も考えないといけないし。
ということで、申し訳ないけど毛虫駆除の依頼はお断りしている。
どうしても、という場合は……。
割り箸と熱湯入りのバケツの出番だ。効率は悪いが、取らないよりはマシになる。一寸の虫にも五分の魂というけれど。
すまん、毛虫どもよ。お前たちを放置すると、来年花が咲かないんだ。
南無阿弥陀仏……。
合掌。
・四月二十三日 ダックス・カルッテット?
今日は、葉山さんちのミニチュアダックスフント、月ちゃん、雪ちゃん、花ちゃん、風くんの夕方散歩を請け負った。
いつも葉山さんと一緒に歩いている道を、四匹は整然とした二列縦隊で歩いていく。いつもながら、躾の良いやつらだ。だけど、葉山さんご夫婦以外にこの四匹を同時に散歩させることが出来るのは、実は俺だけらしい。うーん。何でだろ? 元から犬猫には好かれる傾向はあるけど。
以前、元義弟の智晴にその話をしたら、「仲間だと思われてるんじゃないですか?」とぬかしやがった。ふん。
公園前で、グレートデンの伝さんとその飼い主の吉井さんに出合った。伝さんは小さいやつらにやさしい。ダックス・カルテット(?)も、伝さんと犬同士のコミュニケートをするのが楽しそうだった。
その光景に、吉井さんもうれしそうに目を細めていた。吉井さんにとっては、子供や孫の感覚なんだろうか。
夕方から天気が怪しくなってきたが、お散歩タイムに雨が降らなくて良かったな。
・四月二十四日 ペットのお世話はじゃんがりじゃがりこ・
もうすぐ世間はゴールデンウィーク。この時期、自由業の俺にとっても黄金週間となる。なんとなれば、ペットの世話の依頼が増えるからだ。
今年は飛び石連休ということもあり、長く家を空けるという人は少ないが、日帰り旅行でも、朝早く出て夜遅く帰って来るとなると、犬の散歩も難しい。ということで、何でも屋の俺の出番だ。
犬猫以外では、飼い蛇の給餌を頼まれることもある。
山田さんちのニシキヘビ、錦ちゃん(キンちゃん、だ)、元気かな。大人しくて良い子だが、巻き付かれるのはちょっと……山田さんは、錦ちゃんは俺のことを気に入ってるって言ってたけど。何でも、蛇は体温で人を識別するのだそうだ。
錦ちゃんに餌の冷凍マウスを与えるのはいいが、その後で大伴さんちのジャンガリアン・ハムスター、じゃがりこん(そういう名前なんだ)のつぶらな瞳を見るのは、辛い……。