第216話 男の料理教室 2
文字数 1,541文字
動揺する野間さん。うーん、説明するのが難しいな。濃そうな匂いがする、って分かる人には分かるけど、彼にはまだ難しそうだ。
「だいたいのカンみたいなものなので……あ、もちろんこのままでも大丈夫なんですよ。ただ、このままだとちょっと濃そうなので」
濃い味のほうが好きですか? と訊ねてみると、薄いのも嫌だけど濃いのも嫌だという。
「じゃあ、やっぱり水を足しましょう。ほんの少し……そうですね、これくらい」
そう言って、おれはだいたい五十CCくらいの水を少しずつ鍋の中に足していった。
「こういう場合、一気に水を入れてしまってはいけません。中身と馴染ませるように、ゆっくり混ぜながら足していきます」
豆腐が潰れまくっているが、問題ない。肝心なのは、美味いものを作ることだ。見掛けは二の次。
後から足した水も馴染んだようで、再びくつくつと煮え出す。完成だ。
俺は小皿に鍋の中身を少し取り分け、スプーンを添えて野間さんに差し出した。
「どうぞ。試食してみてください」
小皿を受け取った野間さんは、ごくり、と喉を鳴らした。空腹から、というより、緊張してるからだろうな。
しばらく手に持った小皿を睨んでいた野間さんは、スプーンを手に取った。意を決したように中身を掬い、口に入れる。
もぐもぐと顎を動かすうちに、眉間の皺が徐々に薄くなる。次いで、驚いたような目を俺に向けてきた。
「どうですか?」
ごくり、と口の中のものを飲み込んで、野間さんはぽつり、呟いた。
「美味しいです……」
それは良かったです、と、俺は微笑んでみせた。
「見かけは悪いけど、味は上々でしょう? ご飯に合うと思いませんか?」
「思います! これだけでも美味しいけど、丼にしたいなぁ」
「そうでしょう、そうでしょう。ま、味見では合格点が頂けたようなので、最後の仕上げです」
そう告げて、俺は再びごま油を取り出した。
「え? またごま油ですか?」
「はい。これを、こんなふうに──」
だいたい、小さじ一杯分くらいを鍋の中に入れ、ざっと混ぜた。
「はい、これで和風麻婆豆腐の完成です」
「和風麻婆豆腐……」
感動したように野間さんは中華鍋を見つめる。
「こんなに簡単に作れるものなんですね」
その言葉に、思わず俺は苦笑してしまった。
「まあ、麻婆豆腐、と呼ぶのはおかしいかもしれませんけどね。なんちゃって麻婆豆腐ということで」
「それでも、すごいです……」
「普通の辛い麻婆豆腐は、豆板醤というのを使うんですよ。そっちも簡単にできるんですが、野間さんは胃が弱い、とお聞きしたので、和風のほうをご紹介してみました」
気遣いに恐縮する野間さんに、残りご飯があるなら、どんぶりに入れてレンジで暖めてください、とお願いする。
追加で簡単に汁物を作りつつ横目で見ていると、野間さんは「玄関開けたら二分でご飯」で有名なサ○ウのご飯を出してきた。慣れた手つきでレンジに入れるところを見るに、よく利用しているようだ。
俺の方は、小鍋に湯を煮立たせ、ヒ○シ○ルうどんスープを投入。火を止める直前に刻んでおいた青ねぎを散らした。
「それは?」
「スープ代わりのすまし汁です。お湯を沸かしてヒ○シ○ルうどんスープを入れて、刻みネギを散らしただけの簡単なものです。ネギの代わりに乾燥ワカメを入れてもいいですよ」
「すごい! あっという間に二品ですね」
「いやいや、お湯を注ぐだけのインスタントのスープと同じですよ。具を工夫できる、というのが強みかな。とき卵を入れてもいいし、それはお好みで」
レンジでチンされたご飯を受け取り、適当な入れ物が無かったのでカレーを盛るような深皿に移し変えた。湯気を上げる白飯の上にまだ熱い和風麻婆豆腐をたっぷりかける。汁椀に簡単すまし汁をよそい、レンゲを添えた。いろいろちぐはぐだけど、これで昼飯の完成。
「だいたいのカンみたいなものなので……あ、もちろんこのままでも大丈夫なんですよ。ただ、このままだとちょっと濃そうなので」
濃い味のほうが好きですか? と訊ねてみると、薄いのも嫌だけど濃いのも嫌だという。
「じゃあ、やっぱり水を足しましょう。ほんの少し……そうですね、これくらい」
そう言って、おれはだいたい五十CCくらいの水を少しずつ鍋の中に足していった。
「こういう場合、一気に水を入れてしまってはいけません。中身と馴染ませるように、ゆっくり混ぜながら足していきます」
豆腐が潰れまくっているが、問題ない。肝心なのは、美味いものを作ることだ。見掛けは二の次。
後から足した水も馴染んだようで、再びくつくつと煮え出す。完成だ。
俺は小皿に鍋の中身を少し取り分け、スプーンを添えて野間さんに差し出した。
「どうぞ。試食してみてください」
小皿を受け取った野間さんは、ごくり、と喉を鳴らした。空腹から、というより、緊張してるからだろうな。
しばらく手に持った小皿を睨んでいた野間さんは、スプーンを手に取った。意を決したように中身を掬い、口に入れる。
もぐもぐと顎を動かすうちに、眉間の皺が徐々に薄くなる。次いで、驚いたような目を俺に向けてきた。
「どうですか?」
ごくり、と口の中のものを飲み込んで、野間さんはぽつり、呟いた。
「美味しいです……」
それは良かったです、と、俺は微笑んでみせた。
「見かけは悪いけど、味は上々でしょう? ご飯に合うと思いませんか?」
「思います! これだけでも美味しいけど、丼にしたいなぁ」
「そうでしょう、そうでしょう。ま、味見では合格点が頂けたようなので、最後の仕上げです」
そう告げて、俺は再びごま油を取り出した。
「え? またごま油ですか?」
「はい。これを、こんなふうに──」
だいたい、小さじ一杯分くらいを鍋の中に入れ、ざっと混ぜた。
「はい、これで和風麻婆豆腐の完成です」
「和風麻婆豆腐……」
感動したように野間さんは中華鍋を見つめる。
「こんなに簡単に作れるものなんですね」
その言葉に、思わず俺は苦笑してしまった。
「まあ、麻婆豆腐、と呼ぶのはおかしいかもしれませんけどね。なんちゃって麻婆豆腐ということで」
「それでも、すごいです……」
「普通の辛い麻婆豆腐は、豆板醤というのを使うんですよ。そっちも簡単にできるんですが、野間さんは胃が弱い、とお聞きしたので、和風のほうをご紹介してみました」
気遣いに恐縮する野間さんに、残りご飯があるなら、どんぶりに入れてレンジで暖めてください、とお願いする。
追加で簡単に汁物を作りつつ横目で見ていると、野間さんは「玄関開けたら二分でご飯」で有名なサ○ウのご飯を出してきた。慣れた手つきでレンジに入れるところを見るに、よく利用しているようだ。
俺の方は、小鍋に湯を煮立たせ、ヒ○シ○ルうどんスープを投入。火を止める直前に刻んでおいた青ねぎを散らした。
「それは?」
「スープ代わりのすまし汁です。お湯を沸かしてヒ○シ○ルうどんスープを入れて、刻みネギを散らしただけの簡単なものです。ネギの代わりに乾燥ワカメを入れてもいいですよ」
「すごい! あっという間に二品ですね」
「いやいや、お湯を注ぐだけのインスタントのスープと同じですよ。具を工夫できる、というのが強みかな。とき卵を入れてもいいし、それはお好みで」
レンジでチンされたご飯を受け取り、適当な入れ物が無かったのでカレーを盛るような深皿に移し変えた。湯気を上げる白飯の上にまだ熱い和風麻婆豆腐をたっぷりかける。汁椀に簡単すまし汁をよそい、レンゲを添えた。いろいろちぐはぐだけど、これで昼飯の完成。