第225話 季節外れのハロウィーン?

文字数 2,057文字

・3月7日 啓蟄過ぎてにょろにょろにょろ・

今日は昼間暖かかったんで、薄着してた。
……日が暮れてから、急に冷えた。

青田さんちのペット、なんちゃらパイソン(名前忘れた)のミーちゃん。春めいた陽気に誘われて脱走したのはいいが、寒くて動けなくなったらしく、青田さんちの隣の隣、鳥山さんちのベランダの隅で小さくなっているのを見つけることが出来た。

白蛇のミーちゃん、丸くなってるとかわいい、かも。

動かない(動けない)ので、簡単に保護用ケージに入れることが出来た。そして。外のベランダとはいえ、自分ちに大蛇が潜んでたことを知った鳥山さんは……泣いてた。蛇、嫌いというか怖いんだって。

青田さん、平謝りに謝ってたけど、許してもらえるだろうか。何でも屋だからって、そういうトラブルの仲裁は出来ないからなぁ。下手にかかわると両方から恨まれることになるし。

啓蟄からほんの数日後の出来事。ミーちゃんも、外国から来たんだから、日本の暦に忠実にならなくてもいいのに。

べくしょっ! うう、くしゃみが出る。この時期、着るものに注意しないと、油断すると風邪引くことになる。気をつけなくちゃ。





・3月8日  首輪抜けされ溝にはまる・

散歩中、首輪抜けしたダックスフントのダークくんを追いかけてたら、溝にはまった。それだけならまだいいが、底には水と泥が溜まってた。

足首まで泥水に浸かり、水飛沫とともに思わず情けない悲鳴を上げる俺。

その声に反応してか、戻ってきてくれたダークくん。溝に片足突っ込んだまま尻餅ついてる俺のほっぺたを、心配そうに舐めてくれた。

尻尾、ふりふりふり。

お陰で無事首輪を付け直せたが、──冷たい。足、冷たい。

機嫌のいいダークくんを連れ、とぼとぼと散歩の続きをしていると、なんとなく『雪山賛歌』が口をついて出た。





・3月13日  屁に飛ばされて・

朝から雨、降ったり止んだり。夕方までは小雨だったが、夜になってからはかなり激しく降っている。

公園の南側、太陽をいっぱい浴びて満開だった梅の花。この雨で散ってしまうだろうか。

散る花あれば、咲く花あり。とはいえ、桜にはまだ早いか。公園の池の端では、水仙が今が盛りと咲き匂ってるけれど。屋上のプランターに植えたチューリップも濃い緑の葉を伸ばしてきているし、ヒヤシンスも尖った頭を出している。

春だなぁ。

桜が咲いたら、ののかを連れて公園ピクニックに行こうか。よし、パパ、弁当作っちゃうぞ! タコさんウィンナーは基本だし、うーん、ウサギリンゴの練習するか?

それとも、今流行りの飾り切りでも研究するべきだろうか。そうだなぁ、「弁当のふたを開けたら動物園」てコンセプトはどうだろう? あー、でも、それだとかわいそうだから食べられない、なんてべそかいたりして。……ああ、俺の娘はかわいい。

などと、ぼうっと考え込んでたら。

勝手に居座っている三毛猫が、すかしっ屁をくれやがった。く、臭い……ゆらり、と尻尾を揺らして餌入れの前に正座(?)する猫。そーか、屁はトリップしてた俺を現実に戻す手段なんだな?

ふふ、策士だな、三毛猫。お前が屁をかました瞬間、散る花もピクニック弁当も何もかも、一瞬で飛んじまったぜ。

「なー?」

声だけはかわいいな。あー、餌切らしてる。ちょっとコンビニまでひとっ走りするか。雨なのに……。

猫にまで使われる俺、何でも屋。

はぁ。





・3月14日 季節外れのハロウィーン?・

今日はホワイトデーだ。
男性が女性にバレンタインデーのお返しをする日、のはず。

なのになんで俺、こんなに飴だのクッキーだのチョコだのビスケットだのにまみれてるんだろう?

いや、バレンタインデーもこんな感じだったんだけどさ。行く先々で季節外れのハロウィーン。当然だが、別に仮装はしていない。

何でだ? 俺って、そんなに食べ物を与えたくなるような顔してるんだろうか? はっ! 石田の爺さん。あんたまで俺に菓子を?

……南部せんべいですか。硬いけど、美味いっすよね!
え? 岩おこしまでも?

えっと、何ですって? せっかくもらったけど、硬くて食べられないからやる? ……ああ、まあ、ありがたく頂いておきますよ。今度、なんか柔らかいもの、持って来ます。丁稚羊羹とか。

バレンタインの残りもまだ消費しきってないんだけどなぁ。

ん? バレンタイン?

はっ!

娘のののかからチョコレートもらったのに、俺、ホワイトデーのお返し考えるの忘れてた。このままじゃののかご機嫌ななめ、俺、元妻に怒られる。

とりあえず、帰ったら電話しよう。

今はとにかく、仕事仕事。石田さんの今日の依頼は、花壇の植え替え。新しく植える花、これでいいですか? え? 赤いのをもっと植えたい? 分かりました、ひとっ走りホームセンターまで行ってきます。

頑張れ、俺! 何でも屋たるもの、お客様の気まぐれにも、出来うる限り対処させていただきます。

あ、ののかへのお返し、花にするのもいいかもな。ついでに買ってこよう。それにしても、午前中のひどい雨、午後からはぱったり止んでくれて本当に助かった。

おっ、薄いけど虹が出てる。
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