第335話 留守番猫の世話 前編

文字数 799文字

・2014年10月4日 留守番猫の世話 

今日はグレートデンの伝さんの散歩が終わった後、鈴木さんちの猫の世話。三匹もいると大変だ。

この猫の世話は突発依頼。今週は予定が詰まってて、本来ならお断りするところなんだけど、息子さんが御嶽山噴火に巻き込まれて大怪我、というのを聞いたらなぁ……。

息子さん、名古屋で就職して独り暮らししてたらしいんだけど、先週の土曜、会社の同僚と一緒に御嶽山に登ってたらしい。月曜になり、五人もの無断欠勤者が出、驚いた会社側が「もしやあの噴火に巻き込まれたのでは……」と慌てて四方八方に連絡を取り、今回のことが発覚したのだそうだ。

幸い、五人は命を失わずに済んだらしい。だけど、それぞれ軽症とはいえない怪我を負って現地の病院に収容されており、誰も会社に連絡することが出来なかったんだそうだ。

あのモクモクと迫り来る噴煙を見て、荷物を全て放り投げ、全員で一目散に下山しようとしたのはいいが、濃厚な黒雲のような噴煙に追いつかれ、視界が真っ暗になり──ガレ場で足を踏み外して次々滑落してしまったらしい。

会社側が自社の御嶽山登山社員の消息を摑んだのが月曜日の夜。それぞれの社員の家族に連絡が入ったのが月曜日夜半。すぐに駆けつけたくてもその日のうちに現地に到着するのは時間的に不可能。そんなわけで、翌火曜日の早朝から収容先の病院に向かうことにしたものの、鈴木さんちには猫が。

家を空けるのが一日二日のことなら、十月に入って涼しくなってきたことだし、多めの餌と水で何とかなるかもしれないが、息子さんの容態次第で何日かかるか分からない。焦った鈴木さんが思い出したのが、普段からあちこちのお宅で犬猫小鳥その他ペットの世話を任されている何でも屋の俺。

夜中にもかかわらず、鈴木さんは俺の住むボロビルを訪ねてきて、事情を説明し、土下座さんばかりの勢いで三匹の飼い猫の世話を頼んできた。

断れるわけ、ないよなぁ。
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