第358話 昏きより 10 終

文字数 1,859文字

絶対あほー! って鳴いてそう……。

だけどもしかしたら、これって毎年のことなのかもしれないなぁ。最終期限の冬至の日、最後の玉を取り上げて、土地神様が亡者男を絶望させるの……。隠したり、今回みたいに手を出せないようにしたり、壊してしまうこともあったりして……。

土地神様、怖い。

でも、亡者男も全然反省してないみたいだし……。うーん。あいつは自業自得だけど、あいつのせいで地に沈んだという千人の魂は救われていて欲しいな。己の嘆きで地の底へ、自縄自縛も罪というなら、誰しも陥りやすい罪だと思う。

……亡者男の邪魔してるあたり、土地神様は千人の魂にはもうとっくに救いを与えてあるのかもしれないなぁ。千人は亡者男みたいに拗らせてないから、少しの明かりでもそれに気づいて、光に導かれて……そうと思いたい。

それにしても、野良猫をきっかけに使うなんて……。

「土地神様……もしかしてNNNと取り引きしましたか……? 仔猫の飼い主を見つけてやるから、とか……」

自分でも莫迦なこと言ってるなー、と思いつつ、部屋着のポケットを探してみる。──あのきれいな陽の光の色をした玉は、もうそこにはなかった。──冬至を過ぎて、狩られた光は散ってしまったんだろうな。そういえば、こころなしかいつもより部屋が暖かいような……。って、こら三毛猫! リモコン踏むな!

リモコン温度調節をプラスのほうに踏まれまくったエアコン、ただいまの設定温度は三十度。もったいない。二十度に下げる。──ったく。

「……あ!」

時計を見たら意外に時間が過ぎていた。ぼーっとしてる場合じゃない。早くしないと朝飯食う暇が……。皿に移したかぼちゃミートパイをチンして、そのあいだに素早く着替える。あ、居候猫にも餌やって水替えて。お湯なんか沸かしてる暇が無い。もう水でいいや、水で。う……パイ、ちょっと熱すぎた。でも美味い。胃に沁みる。身体も温まる。

「……」

舌をヤケドしそうになりつつ、パイをもぐもぐしながら考えた。昨日、頂き物とはいえ南瓜食べまくってたから、亡者男は俺に手を出せなかったんじゃないかって。夢枕には立たれたけど。

そういえば、午前中障子張りに伺った長島のお婆ちゃんに、小腹がすいたでしょって、小豆粥食べさせてもらったっけ……冬至の縁起物だからって。ありがとう、長島のお婆ちゃん! 今度肩叩きサービスさせていただきます! ──冷蔵庫の木倉さんにもらったかぼちゃプリン、トッピングに小豆がのってた。

「はぁ……」

あまりにもきれいに流れすぎて、どこまでが土地神様プロデュースかわからないけど、実害なかったから別にいいや。俺がちょっと眠り足りないだけで。──御堂さんの部屋着が魔除け柄だったのはともかく、虎豆くん連れてこの街に引っ越してきたのは……さすがに偶然だよな? そこまで土地神様の思惑だったりなんか……。

……
……

考えるな俺。食べ終わったなら歯を磨け。顧客様の前に出るのに、顔も洗わないってダメだろ。何でも屋は名前が怪しげなぶん、清潔感が命!

さて、今日の仕事始めはグレートデンの伝さんの散歩だ。吉井さんちまで急ぐぞ。待ってろ、伝さん。たっぷり歩かせてやるからな。その後はセントバーナードのナツコちゃんと散歩して、ゴールデンレトリーバーのゴル子ちゃんとも散歩して……。

あ、そうだ、御堂さんに部屋着返さないと! ゴル子ちゃんの後くらいでいいかな、時間的に。

今年ももうあと少し。師走には何でも屋だって走るんだ。今日は大掃除と模様替え手伝いの仕事も入ってる。買い物代行とか、正月前に落ち葉の溜まった庭掃除とか……ほんと、慌しくて忙しいけど、逃げる太陽を追いかけ、昨日よりちょびっとだけ伸びた光を追いかけて、今日も俺は頑張るぞ! 








エピローグ

御堂さんちの虎豆くんの拾った仔猫は、小豆ちゃんという名前になった。
女の子だったらしい。















しゃらしゃらしゃら……
さらさらさら……

  めぐり来て めぐり来たりて めぐり往く
  陰陽の 光と影の 往き往きて めぐり来たりて 往く果ては
  果ての果てのその果ての そのまた果ての果ての果て
  たどり着いてはその先に 無尽の無限のめぐり来て 無窮の果ての遠ざかる
 
  さても今年もめぐり往く 来る年またもや往かねばならぬ 

  ああ、昏い
  暗い 昏い 無明の闇よ 光はどこに

しゃらしゃらしゃら……
さらさらさら……

  昏きより昏き道にぞ入りぬべき
  昏きより、暗きより、昏き道にぞ…… 

しゃらしゃらしゃら……
さらさらさら……



昏きより昏き道にぞ入りぬべき 常世の闇の常闇の国
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