第195話 無言電話対策
文字数 2,117文字
・三月十八日 無言電話対策・
今日は臨時収入が入った。
馴染みの元チンピラ、今はたこ焼き屋のおにーさんやってるシンジのツレが無言電話の被害に遭っているというので、ちょっとしたアドバイスをした。そうしたら、それまで一日何十回とかかって来ていた無言電話が、ぴたりと止まったのだという。
アドバイスといっても、電話口で延々と般若心経を流す、という簡単なものだったんだけど。
そんな程度で止めるとは、無言電話の主も根性(?)が無さすぎると思う。嫌がらせだったのか、ストーカーだったのか分からないけど、他人に粘着する暇があるんなら、どっかの寺に修行にでも行けば良いのに。
「尼寺へ行け!」と言ったのはハムレットだったか。相手が男だったら「修道院へ行け!」となるんだろうか。だけど、日本だったらやっぱり寺だろうな。神社でもいいけど。
結構な額の謝礼だったので、一応辞退したのだが、シンジのツレはよほど羽振りが良いのか、はたまた無言電話が止んだのがそれほどうれしかったのか、どうしても受け取ってくれというので、ありがたくもらっておくことにした。シンジもそうしろというし。
さて、せっかくだから、このお金でののかの進級お祝いに何か買うことにしよう。予定していたより予算が増えたから、最初に思ってたよりいいものをプレゼント出来る。そうだな、芙蓉んちの夏樹くんもののかと同じく四月からちょっとだけお兄ちゃんになる。あの子にも何かお祝いを買ってあげよう。
・三月二十日 春分の日は大雨・
今日は春分の日。なのに、大雨。
屋上の家庭菜園(プランター造りだ)が気になって、雨が小休止したところを見計らい、様子を見に行った。
ののかと植えたチューリップの芽たちは無事だった。ミニ水仙やクロッカスもたくましい。雨に濡れながらも凛と花を咲かせている。良かった。
長く伸びた万能葱は、真ん中あたりで折れ曲がっているのが数本。先が茶色に変色する前に収穫しておこう。こいつら、根っ子を捨てずに土に植えただけなのに、大した生命力だ。その隣には、種を撒いただけだった春菊。こいつも元気に葉を繁らせてくれている。ちょっと早いけど、これも摘んでおくか。明日明後日は忙しいし。
その日の夕飯のおかずは春菊のおひたし(洗って切って茹でただけ)と、刻み葱入りインスタント味噌汁、焦げた玉子焼き・シーチキン入り。春菊はほろ苦く、春の味って感じだ。美味かったが、ちょっとじくが硬かった。
あー、明日は晴れるといいな。
そういえば、このビルに棲み付いてしまったらしい三毛猫はどうしたろう。姿を見なかった。猫は濡れるのが嫌いだから、その辺の物陰に隠れてるのかな。とりあえず、餌だけは置いておいてやろう。
・三月二十六日 家に連れて帰るまでが仕事です・
今日はウメシンの御隠居の通院に付き添った。いつもは同じ町内に住む孫が連れて行くそうだが、今回だけはどうしても都合がつかなかったらしい。
本名は「梅田進重郎」なんだが、ご近所ではウメシンで通っている。今の好々爺然とした様子からは想像出来ないが、昔は結構な強面だったという(893の親分さんだったという噂有り)。うーん、そういえばふとした拍子に妙に鋭い眼をすることがあるよなぁ。噂、本当だったりして。
御隠居、帰りに寿司屋に寄っていくといって聞かない。困ったが、家に連れて帰るまでが仕事なので、付き合うことに。だけど、値段が「時価」としか書かれてない店でびびった。
自分が食べたいと言っていたのに、ウメシンさんはあまり食べず、俺にいっぱい高そうなネタを食べさせてにこにこしていた。「あんたは食べさせ甲斐があるねぇ」と御満悦。俺、そんなにがっついてたかな? だってさ、旨かったし……。
ウニにイクラにコハダ、甘エビにアワビ。大トロはあまり好きではないので、パス。
でっかい湯飲みで飲むお茶も美味かった。
それにしても、いくら奢りとはいえ、会計が怖かったが、ウメシンさんはいつの間にか済ませていた。粋だなぁ。
杖をついてゆっくり歩くウメシンさんは、何だかとてもご機嫌だった。
気前が良くて二枚目で、ちょいとヤクザな……。
ウメシンさん、実は背中に桜吹雪のもんもんを背負ってたりして。
・三月二十九日 絆創膏とお菓子・
不思議だ。
ついこの間まで蕾だったのに、桜が満開、とまでは行かなくても、七部咲き、八部咲きになっている。
きれいだなぁ、と思いながら歩いていたら、何に躓いたものか、派手に転んでしまった。ちょっとした擦り傷だけですんだのはありがたいが、公園ランチのOLさんたちに笑われた……いいトシをして、恥ずかしい。
笑って誤魔化しつつ、速やかにその場を立ち去ろうとしたのに、親切な彼女らは俺を呼び止め、絆創膏とお菓子をくれた。俺は小さな子供と同じ扱いか。うう。
でも、もらったお菓子は美味かったな。ののかにも食べさせてやりたい。どこで売ってるんだろう?
それにしても、女の人たちはいつもどこからか手品のようにお菓子を出してくるなぁ。あれも不思議だ。
今日は臨時収入が入った。
馴染みの元チンピラ、今はたこ焼き屋のおにーさんやってるシンジのツレが無言電話の被害に遭っているというので、ちょっとしたアドバイスをした。そうしたら、それまで一日何十回とかかって来ていた無言電話が、ぴたりと止まったのだという。
アドバイスといっても、電話口で延々と般若心経を流す、という簡単なものだったんだけど。
そんな程度で止めるとは、無言電話の主も根性(?)が無さすぎると思う。嫌がらせだったのか、ストーカーだったのか分からないけど、他人に粘着する暇があるんなら、どっかの寺に修行にでも行けば良いのに。
「尼寺へ行け!」と言ったのはハムレットだったか。相手が男だったら「修道院へ行け!」となるんだろうか。だけど、日本だったらやっぱり寺だろうな。神社でもいいけど。
結構な額の謝礼だったので、一応辞退したのだが、シンジのツレはよほど羽振りが良いのか、はたまた無言電話が止んだのがそれほどうれしかったのか、どうしても受け取ってくれというので、ありがたくもらっておくことにした。シンジもそうしろというし。
さて、せっかくだから、このお金でののかの進級お祝いに何か買うことにしよう。予定していたより予算が増えたから、最初に思ってたよりいいものをプレゼント出来る。そうだな、芙蓉んちの夏樹くんもののかと同じく四月からちょっとだけお兄ちゃんになる。あの子にも何かお祝いを買ってあげよう。
・三月二十日 春分の日は大雨・
今日は春分の日。なのに、大雨。
屋上の家庭菜園(プランター造りだ)が気になって、雨が小休止したところを見計らい、様子を見に行った。
ののかと植えたチューリップの芽たちは無事だった。ミニ水仙やクロッカスもたくましい。雨に濡れながらも凛と花を咲かせている。良かった。
長く伸びた万能葱は、真ん中あたりで折れ曲がっているのが数本。先が茶色に変色する前に収穫しておこう。こいつら、根っ子を捨てずに土に植えただけなのに、大した生命力だ。その隣には、種を撒いただけだった春菊。こいつも元気に葉を繁らせてくれている。ちょっと早いけど、これも摘んでおくか。明日明後日は忙しいし。
その日の夕飯のおかずは春菊のおひたし(洗って切って茹でただけ)と、刻み葱入りインスタント味噌汁、焦げた玉子焼き・シーチキン入り。春菊はほろ苦く、春の味って感じだ。美味かったが、ちょっとじくが硬かった。
あー、明日は晴れるといいな。
そういえば、このビルに棲み付いてしまったらしい三毛猫はどうしたろう。姿を見なかった。猫は濡れるのが嫌いだから、その辺の物陰に隠れてるのかな。とりあえず、餌だけは置いておいてやろう。
・三月二十六日 家に連れて帰るまでが仕事です・
今日はウメシンの御隠居の通院に付き添った。いつもは同じ町内に住む孫が連れて行くそうだが、今回だけはどうしても都合がつかなかったらしい。
本名は「梅田進重郎」なんだが、ご近所ではウメシンで通っている。今の好々爺然とした様子からは想像出来ないが、昔は結構な強面だったという(893の親分さんだったという噂有り)。うーん、そういえばふとした拍子に妙に鋭い眼をすることがあるよなぁ。噂、本当だったりして。
御隠居、帰りに寿司屋に寄っていくといって聞かない。困ったが、家に連れて帰るまでが仕事なので、付き合うことに。だけど、値段が「時価」としか書かれてない店でびびった。
自分が食べたいと言っていたのに、ウメシンさんはあまり食べず、俺にいっぱい高そうなネタを食べさせてにこにこしていた。「あんたは食べさせ甲斐があるねぇ」と御満悦。俺、そんなにがっついてたかな? だってさ、旨かったし……。
ウニにイクラにコハダ、甘エビにアワビ。大トロはあまり好きではないので、パス。
でっかい湯飲みで飲むお茶も美味かった。
それにしても、いくら奢りとはいえ、会計が怖かったが、ウメシンさんはいつの間にか済ませていた。粋だなぁ。
杖をついてゆっくり歩くウメシンさんは、何だかとてもご機嫌だった。
気前が良くて二枚目で、ちょいとヤクザな……。
ウメシンさん、実は背中に桜吹雪のもんもんを背負ってたりして。
・三月二十九日 絆創膏とお菓子・
不思議だ。
ついこの間まで蕾だったのに、桜が満開、とまでは行かなくても、七部咲き、八部咲きになっている。
きれいだなぁ、と思いながら歩いていたら、何に躓いたものか、派手に転んでしまった。ちょっとした擦り傷だけですんだのはありがたいが、公園ランチのOLさんたちに笑われた……いいトシをして、恥ずかしい。
笑って誤魔化しつつ、速やかにその場を立ち去ろうとしたのに、親切な彼女らは俺を呼び止め、絆創膏とお菓子をくれた。俺は小さな子供と同じ扱いか。うう。
でも、もらったお菓子は美味かったな。ののかにも食べさせてやりたい。どこで売ってるんだろう?
それにしても、女の人たちはいつもどこからか手品のようにお菓子を出してくるなぁ。あれも不思議だ。