第302話 草刈りと御地蔵様

文字数 1,051文字

・11月23日 草刈りと御地蔵様

今日は勤労感謝の日。土曜日と重なって、残念な祝日だ。
俺にはあんまり関係ないけど。

ともあれ、さすが祝日。子供の塾のたぐいは休みになるところが多くて、必然的に送迎の仕事は減る。その分ヒマになるかと思ったが、単発で草刈りの仕事が入った。

空き地から、道路にあふれ出る勢いで葉を伸ばす雑草。もう少し放っておけば枯れるだろう、ってなもんだが、「歩行者の邪魔。危ない。なんとかしろ」と管理者に苦情が入ったそうだ。

管理者は隣県住い。ということで、顔見知りの俺に草刈りを頼んできた。

電動草刈り機を自転車に括り付けて、現場まで押して行く。蓄電池式の伸縮タイプだからまだこんなふうに運べるけど、エンジン式だとさすがに自転車運搬は無理だろうなぁ。

作業を始める前に、野良猫などいないか確認する。当たり前だけど、怪我なんかさせたくないしな。道路側に垂らしてある鎖の内側に入って、しばらくバリバリと草を刈る。あー、草の匂い。土の匂い。夏場とはまた違うんだよなぁ。

隅の方は、自転車の前カゴに入れてきた鎌で刈る。草刈り機を入れるには隣の家の土台が邪魔だし、きれいに仕上がるからな。遅咲きの野菊の花に、謝りつつ丁寧に刈っていく。

はー、疲れた。バンダナがわりに頭に巻いていた手ぬぐいを外し、顔と首筋の汗を拭く。柄はキティちゃん。……娘のプレゼントだよ、文句あるか! って、誰に言ってるんだ俺。

元妻と暮らしている娘のののかとは、文化の日の振り替え休日に会った。先月はいろいろ忙しかったらしく、会えなかったから、俺もテンション上がってた。ののかもはしゃいでた。だけど、「パパにも運動会、来てもらいたかったなぁ」なんてちょっと寂しげに呟かれると、嬉しさとともに罪悪感が……。

──大丈夫よ、パパ。ほら、智ちゃんがデジカメで撮ってくれたの!

俺の顔を見たののかが、玉入れしているところをアップで撮ったのを一所懸命見せてくれた。まだ幼い娘に気を遣われる父親、情けない。元義弟の智晴が撮ったという画像はどれもツボを心得ているというのか、出来がよかったけど、俺もののかが撮りたかっ……。

いやいや、あんまり落ち込んじゃいけないな。来月もまた会えるんだし。秋だからってもの思いに耽りすぎたよ。そろそろ冬だけど。

一息ついてから、きれいに取っておいた野菊の花を、近くにあるお地蔵さんに供えに行った。

──どうか、すべての子供たちをお守りくださいますように……。

手を合わせてからふと空を見上げると、晴れた空に白い雲がぽっかり浮かんでいた。
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