第307話 文さんはブサかわキュートなナイスガイ

文字数 960文字

・4月15日 文さんはナイスガイ

菅原さんちの文さんと、普段あまり通らない道を歩いてた。

文さんはブルテリアで、ぶさかわキュートなナイスガイ。近所の人気者だけど、散歩中に勝手にオヤツを与えようとする人が増えたので、新しい散歩ルートを開拓しているところ。

お、歩道のちょうど五十メートルほど先を、柴犬を連れて歩いている人がいる。この時間帯はやっぱり犬と散歩してる人が多いなぁ。──てなことを考えてたんだけど、先行く一人と一匹の動きが何だかおかしい。歩道の真ん中をスタスタ歩いてたのに、ある場所で急に左側に寄るんだ。

途中の道から曲がってきた人も、同じところでヒョイと左側に寄る。

なんなんだろう? と思いながら歩いてたんだけど、その場所にさしかかってから分かった。素焼き風の細かい敷石の隙間から、背の低い紫色のスミレがたくさん生えてるんだ。群生してる、といってもいいくらい。

弱々しいほど細くて小さい花なのに、敷石をものともせずに咲いている。なんたるド根性。

そりゃあ、皆よけて通るわ、と俺は感心していた。一所懸命咲いてる野の花を、わざわざ踏んで行こうなんてあんまり思わないもんな。

と。

「おい、こら文さん!」

俺の足元で、何故かスミレの花を毟ってる文さん。ふんふん鼻を鳴らして匂いを嗅ぎながら、実に美味そうにむしむし花を齧ってる。俺は慌ててリードを引いた。

「ダメだよ、そんなの食べちゃ。お腹こわすぞ?」

「ぼん!」

……そう、文さんの鳴き声は「ぼん!」だ。「わん」とか「おん」とかじゃないのか、と思って耳をすませてみるんだけど、どうしても「ぼん」と聞こえてしまう。

「スミレって、おひたしとかで食べられるって聞いたけど……、犬の体に悪いかもしれないから食べちゃダメ」

「ぼん……」

「さ、もう帰ろうな。菅原さんが待ってる」

「ぼん!」

あー、ホントに文さんはぶさカワイイなぁ。

犬の散歩の醍醐味は、一緒に道を歩く連帯感と、信頼感。そして、なにかしらの<発見>じゃないかな、と俺は常々思ってる。

その犬のちょっとしたクセだったり、何かに直面した時の反応、感情表現だったり。

今日は、文さんのお花好き(?)を知ることが出来た。戻ったら、菅原さんに報告するこにしよう。たいがいの飼い主さんは、自分の見てない時の愛犬の可愛い仕草や面白い行動を聞くのが好きだからなぁ。
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