第311話 化粧もペンキも下地が大事

文字数 1,088文字

・5月30日 化粧もペンキも下地が大事

青い空。時々微風。最高気温31℃。
山田さんちのボロボロな鉄柵を見て思う。

なんというペンキ塗り日和!

カリカリ、カシカシ。

ペンキを塗る前に、お好み焼き用の小さいコテと荒目のサンドペーパー、古布を使って鉄柵の錆を丁寧に落とす。下地が肝心なのは、女性の化粧と一緒だよな。

……うん。そんな喩え、女装バーのマスター、というか、ママ?  の芙蓉のヤツに、俺自身がメイクされるなんて経験が無かったら、浮かばなかったよ。っていうか、浮かびたくなかったなぁ……。

──メイクの基本は、下地よ。いくらファンデーションやパウダーを上手に塗ったつもりでも、下地を疎かにするとキレイに見えないし、崩れるのも早いわ。

うん、そうだね、芙蓉。錆を丁寧に落として下地を整えないと、ペンキ塗ってもキレイにならないし、きっと剥がれるのも早いだろう。

頭の中で、俺の良く知る女装の麗人(・・・・・)が嫣然と微笑む。

──そうよ。分かってるじゃない。

くっそー、俺の馬鹿! 何で芙蓉なんか思い出してしまったんだ。あいつ、すぐ俺に女装させたがるんだよなぁ。くっ! 錆取り=化粧下地、と連想してしまった俺の負けなのか? そうなのか?

……照り付ける太陽の下、独り謎の敗北感に打ち拉がれる俺。

あああああ、暑い!

……
……

ふう。
昨日も暑かったし、疲れてるんだな。ちょっと休憩して、塩麦茶飲んで飴舐めよう。

ののか、パパ、芙蓉なんかに負けずに頑張るからね!





・6月1日  強面わんこも散歩がお好き

今日から六月。朝の涼しいうちに、グレートデンの伝さんと散歩。

公園コースを行く伝さんの足取りは軽い。このところ昼間の最高気温が連日三十度を越えてるけど、そんなの関係なく伝さんは元気いっぱいだ。時折出会う犬仲間と匂い嗅ぎの挨拶をしながら、とっとこ歩く。

「なあ、伝さん」

「おん?」

「伝さんはスタミナがあるなぁ」

「おん!」

そうともオレはタフだぜ、とでも言うように、軽く吠えて返事をしてくれるから、俺は楽しくなってしまう。

「じゃ、軽く走ってみるか?」

「おんおん!」

リードを握り直して軽く走り出すと、当然ながら苦もなくついてくる伝さん。だけど、決して俺を追い越して行ったりはしない。伝さんはきちんと訓練されている超大型犬なのだ。

はっはっは、と大きな桃色の舌を出しながら、伝さんはすごくうれしそうに俺に合わせて走る。本当に楽しそうだ。全身で喜んでるわんこって、どうしてこんなに可愛いんだろう。

強面だろうと、地獄の番犬のようにでっかかろうと、可愛いったら可愛いんだ。

なあ、伝さん。今日も暑いだろうけど、伝さんのお陰で頑張れるような気がするよ。
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