第276話 熱中症には懲りた、はず。

文字数 917文字

・7月14日 梅雨いつあがる

俺の住処のボロビルの屋上菜園では、ミニトマトが大人の背丈ほどにも育ってる。今年は特に土や肥料に凝ってみた。その甲斐あって、たくさん実をつけかけてたんだけど。

雨で、赤い実が爆ぜてる。

今日も各地で豪雨。大雨警報や洪水警報の連発だ。この辺りでも、いつも犬の散歩に行く公園の池の岸辺がぬかるんで、遊歩道との境目が分かりにくくなってる。勢いづいていた蒲の穂の細長い葉も、ここしばらく繰り返し打ち付けてくる大粒の雨に、しなしなと折れ曲がっている。

ミニトマトの青い実が、熟すことなく朽ちていく。早く梅雨が明けないかな……。





・7月17日 梅雨明け

いきなり梅雨明け。カンカン照り。

暑い。太陽の光が強烈だ。まだ昨日までの雨の余韻が地面に残ってるから、蒸し暑くもある。「蒸し蒸し」から「蒸し」くらいになってるけど。

今日は樋掃除に草むしり、壊れた犬小屋の補修に引越しの手伝い。水分はいくら摂っても汗になって出て行く。薄めに作った塩麦茶と、このあいだ広瀬のお婆さんにもらった梅干しが俺の滋養強壮剤だ。

それにしても握り飯が美味い。がしがし握って海苔巻いただけの代物だけど、腹の底から力が湧いてくるような気がする。

やっぱり日本人は米だよ、うん。

よーし、この調子で、午後からも頑張るぞ!






・7月18日 熱中症には懲りた、はず。

風呂上り、腰に手を当てて冷えたポンジュースをごくごく飲んでいたら、元義弟の智晴から携帯に電話が掛かって来た。

開口一番言われたことは。

──エアコン、ケチってないでしょうね?

だった。……一昨年、熱中症で倒れて以来、俺はこの件に関して信用されていない。元妻からは五月頃からメールで注意されてたし、このボロビルの家主の友人は、家賃を持って行くたびちゃんとエアコンを使ってるか確認を取ってくる。

「ケチってない! ガンガン使ってるから!」

──ガンガン、ねぇ。

わざとらしい溜息が聞こえる。

──ともかく、大人なんだから、自分の体調くらい把握しておいてくださいね。

言うだけ言って、通話は切れた。

「……」

俺、無言。何も言えない。あの時は迷惑掛けたからなぁ……。

しみじみ反省しつつ、俺は風呂入ってる間切ってたエアコンのスイッチを入れた。
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