第248話 3月31日。  オー・ド・カメムシ

文字数 1,173文字

・3月31日 オー・ド・カメムシ

風呂の蓋を開けたら。
湯気と一緒に、ヤツの強烈なニオイがぶわぁっと……。

ヤツって誰かって? カメムシだ、カメムシ。昆虫の。──洗濯物にでもくっついて入って来たのか?

うわぁ、湯舟の上に浮いてる。で、まだ動いてる。蓋の裏側にでも潜り込んでたのかな。で、俺が開けた拍子にダイビング。

どうしよう。

だってさ。カメムシのあの臭い、水に混じると<オー・ド・カメムシ>になっちゃうんだ。

うう。

カメムシの芳香(?)に包まれて優雅なバスタイム、って、出来るかぁっ!
かといって、湯を捨てるのももったいない……けど、臭い……。

あああ、俺はどうすればいいんだ!





・4月1日 桜前線

天気はイマイチでも暖かかった今日。
昼に見た時は八分咲きくらいだった桜が、夕方見たら満開になってた。すごい。

いつからだっけ、「桜前線」て言葉が聞かれなくなったのは。理由は、気象庁の予想と民間気象サービスの予想がズレることが多いから、だったっけか? うーん、忘れた。でも、何だか寂しい。

昔は毎年この時期になると、天気予報の最後に必ず「桜前線」の推移が紹介されてたっけ。じわじわ北上して行くんだ。見てるとわくわくして大好きだったなぁ。

日本列島が、「桜列島」になるみたいでさ。





・4月5日 桜に猫

今日も満開の桜。

花が開く前も、開いた後も、気温の低い日が続いてる。お陰で、今年の桜は長持ちだ。

折りたたみの梯子を自転車の荷台にくくりつけ、乗らずにゆっくり押していく。

さっき電話もらって、三丁目の飯田さんちに行く途中だ。何でも、二階のベランダから、うっかり一階の屋根の隙間にスマホを落としてしまったという。

ま、普通の家にはあんまりこの手の梯子、置いてないからなぁ。

ふわふわ綿菓子みたいな桜を愉しみながら歩いていく。と、一本の老木の枝に猫がいた。真っ白だ。大きさからして、中猫と子猫の間くらいかな?

何だか、桜の薄紅に同化してるみたいだけど。

あー、はいはい、登ったはいいけど、降りられなくなったんだな。ちょうど梯子があるし、降ろしてやるとするか。飯田さんは猫好きだから、少しくらい遅れても理由を説明したら許してくれるだろう。

だから、引っ掻くなってば!





・4月9日 花と蝶

桜の花は半分以上散って、代わりに、柔らかい緑の新芽がぐんぐん育ってきてる。

すごいよなぁ。生きてるんだよな。

感動というか、感心しながらふと傍らを見ると、長い葉っぱの枇杷の木にはもう小さな実が。

咲く花あり、散る花あり、実を結ぶ花あり。

人生いろいろ、とかいうけど、花もいろいろだよな。

「あ……」

桜の木の根元、散った薄紅の花びらに埋もれて、黄金色のタンポポの花。気の早い紋白蝶が翅を休めている。

見とれていると、ふわっと吹いた風に乗り、花びらとともに蝶もどこかに飛んでいった。

花と蝶は、やっぱりイノシカチョウより風流だよなぁ。
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