第345話 猫たまご

文字数 654文字

・10月25日 猫たまご

目覚ましの音で眼が覚めた。
外はまだ薄暗い。すぐに明るくなるんだけども。

今朝は犬の散歩の仕事が二件入ってる。グレートデンの伝さんと、セントバーナードのナツコちゃん。効率よく済ませなければ、後の仕事の段取りが狂う。伝さんは躾が良くて賢い犬だから楽だけど、飼い主さんに甘やかされたナツコちゃんは、正直決まった散歩コースを歩かせるのも一苦労だ。

はー、まだ眠いけど起きなきゃ。気合を入れてほっぺたをバシっと叩いて起き上がる。まずはトイレだ。

すっきりして、顔を洗う前に手早くパイプベッドの布団を畳もうと寝室にしてる部屋のドアを開けたら。

居候の三毛猫が、上掛けを捲くったまんまの俺の布団に潜り込んで丸くなってた。お前、さっきまで俺がボロソファの上に放り出したままのジャケットの上で寝てなかったっけ。

まだ俺の温もりが残ってるであろう布団の真ん中で、くるりと丸まってる三毛猫。長い尻尾を抱きかかえるようにして、両前足で目元を隠すように覆っているその姿はまるで──

以前動画サイトで見た、孵化する時人間に卵の殻を割るのを手伝ってもらったカメレオンの幼生みたいだ。

長い尻尾と両手足を抱えるようにして、卵の形に添うように丸まっていたチビカメレオン。それと全く同じ体勢で布団に転がる三毛猫。

「猫たまご……」

気がつけば俺はそんなしょーもないことを呟いていた。こんなもん、孵したおぼえも割ったおぼえも無いんだけどなぁ。

とりあえず。どけ、居候め。パイプベッドといえど、布団を敷きっぱなしにするわけにはいかないんだから。
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