第346話 布団日和 前編 米綿の布団

文字数 1,123文字

・10月27日 布団日和

空は青空日本晴れ。

このところ洗濯日和が続いてるので、今日も朝から洗濯機を回し、シーツや布団カバー、枕カバーなんかを干してきた。朝夕冷えるし、そろそろ寝具も冬仕様に変えていかないとな。何でも屋家業は身体が資本、風邪なんて引くわけにはいかない。

空き地の草刈りや布団干し、買い物代行なんかの仕事を午前中に済ませ、昼は手早くインスタントラーメンで済ませてしまう。うーん、味噌ラーメンと茹でモヤシは相性がいい。

午後からは頼まれた粗大ごみを収集場所に持って行き、戻って来たらそろそろ三時になるという時間だったので、慌てて沢本さんちに自転車を走らせた。朝干した布団を取り入れるためだ。

濃い花の香りに導かれて、古い民家に到着する。歳月を感じさせる板塀を覆うように伸びた金木犀の枝には、オレンジ色の小花がぽこぽこ玉のようについているのが見えた。

板塀の一部のように見える木の引き戸をくぐるとすぐ庭になっており、その奥には家の玄関が見える。俺が布団を干したのは、引き戸と玄関のちょうど真ん中あたりに設置された物干し台だ。意外と高さのあるそこに、重い布団を干すのはお年寄りには酷なもの。かくして何でも屋の俺の出番というわけだ。

「沢本さーん」

俺は網戸にしてある玄関脇の掃き出し窓の向こうに声を掛けた。

「何でも屋です。布団、取り入れに来ました」

パタパタと小さな足音が聞こえたかと思うと、沢本のおばあちゃんが網戸を開けて顔を出した。

「あら、もうそんな時間なのね。ネットで小説を読んでたら時間を忘れちゃったわ」

ごめんなさいね、と恥ずかしそうに頭を下げる沢本さんは、電子図書館の青空文庫にはまっているらしい。紙の本と違い、ブラウザ調節で文字を大きくすることが出来るから、老眼の眼にも読みやすいのだそうだ。

「今日は天気がいいから、ふっかふかに仕上がりましたねぇ」

籐の布団たたきを取ってもらって、ばしばし叩く。一日中お日様を浴びた布団は、びっくりするくらいぱんぱんに膨らんでいる。

「米綿の布団だから、よけいにね」
「べいめん? ああ、米綿。あれって質がいいらしいですね」

そういえば、そんな話を古道具屋の真久部堂さんから聞いたことがある。俺の安布団だと、いくら干してもこうはならない。そっか、布団は中身の綿でこんなに違って来るんだな、と納得していると、庭に出てきた沢本さんは苦笑いした。

「そうなんだけど、そのぶん重いのよ。今どきは流行らないらしいわ」
「あー、確かに。俺の布団だともっと軽いです。その代わり薄いけど」

こんな分厚い布団に寝転んだら、気持ちいいだろうな。そう思いながら軽く畳むようにして掃きだし窓から取り入れる。敷布団に掛け布団、と。おおう、ふっかふか。
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