第250話 開き直りの源平合戦?

文字数 1,486文字

・4月18日 彼女の香り

うす曇りの空の下、茂木さんに頼まれて買った特売のトイレットペーパーを自転車に積んで歩いていたら、なにやらとてもいい匂いが。

あ、あれか。前田さんちのフリージア。階段状の玄関先のプランターに、黄色と白と濃紫、三色揃って咲いている。

こんなふうに漂ってくる花の香りっていいよなぁ。

花の香り……香りかぁ。別れた妻は、いつもいい匂いがしてたっけ。聞いたことなかったけど、何か香水つけてたのかな。とてもさり気ない香りで、意識してないと分からないくらいだったけど。

元気にしてる、んだろうな。離婚後、彼女が始めた事業は完全に軌道に乗っていて、とても順調らしいし。

今も、彼女はあの香りをまとってるんだろうか。





・4月20日 猫は自転車が好き

サドルの上に、猫。

自転車、依頼者の家の前にちょっと止めてただけなのに。ああ、そういえばこの辺り、曇りの日によく猫が溜まってる場所に近い……。

こら、どけ。この銀黒シマシマ猫。俺はこれから頼まれた届け物しなくちゃいけないんだ。何? 寝心地がいい? そんな狭いところのどこが。

いいからどけったら。
……あー、寝なおしやがった。しょーがないなぁ。

必殺! 耳吹きの刑!

ぷるぷる頭振る猫。どうだ、くすぐったいだろう。だからそこどきなさい。って、まだ寝るか。しょうがないな、もう。

抱き下ろしてやったら、何故か速攻で塀の上に飛び乗り、じっとこっちを見下ろしてやがる。優位に立ったつもりか。そっちが立体的に動くなら、こっちは平面的に動くまでよ。

立ち漕ぎで猫から遠ざかる。じゃあな、強情っぱりの負けず嫌い!






・4月24日 蜂にたかられる

朝起きたら妙な寝癖がついてたんで、放置してた試供品のヘアワックスを使うことにした。ちょっと匂いがキツいけど、タダだし、ま、良いか、と思いながら外に出た。

蜂にたかられた。

……これは製品化しない方がいいと思う。蜂を誘惑するような香りのヘアワックスって、どうなんだよ?

そんなこと考えながら、走って逃げた。
部屋に戻って、速攻でシャワーを浴び、念入りに洗い流す。

タオルでガシガシ頭を拭きながら風呂場の外に出て、急いで服を着直す。改めて出かけようとして、ふと鏡を見た。

朝と同じところが、またぴょんと撥ねてる。寝てないのに寝癖とはこれ如何に。もうどうでもいいや。急がないと約束の時間に遅れる。郷田の爺さん、時間に煩いからな。





・4月27日 開き直りの源平合戦?

雨の中、傘を差してトオル君と歩く。小学二年生の彼をピアノ教室まで送って行くんだ。

「ねえ、おじさん」

「ん? どうした、トオル君?」

「あそこのおうち。かっせんの家なんだよ。知ってる?」

……かっせん?

トオル君の指さす方を見て、俺は思わず頷いてしまった。その家の玄関の両脇には、今が盛りの花水木。片方が真っ白なら、もう片方は赤。──合戦、だな。

しかも表札は「源平」。「げんだいら」って読むんだろうけど。

「ここのおじさん、開きなおったんろうなぁ、って、お父さんがいってた」

「そ、そうかい……」

うーん、なかなか否めないね、その意見。





・4月30日 晴れの日は伝さんをモフる

小の月だから、四月も今日で終わり。何だかんだで月日が経つのが早いよな。……トシのせいか?

今日は朝から晴れっ晴れのいい天気。洗濯物が乾くのが早くて、夕方の犬の散歩前にはもう乾いてた。布団カバーも洗ったから、乾いてくれて本当に良かった。今夜はいい気分で眠れるぞ。

さて、これからグレートデンの伝さんと散歩だ。きっと伝さんもお日様の匂いがするに違いない。ブラシ掛けてやるのがちょっと楽しみだ。その前に思う存分もふってやろう。
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