第300話 消えた足跡 足かっくん

文字数 949文字

・1月16日 消えた足跡 足かっくん

足跡が、消えた。
俺の。

……
……

気づいたら、側溝にはまってた。秋に立ち枯れた雑草が被さってて、うっかり足を踏み出してしまったんだ。

あの感覚。地面があると思って踏み出したのに、それが無かった時の感覚。何て表現すればいいんだろ、膝裏を不意打ちで突かれる<足かっくん>の、百倍くらいのかっくん具合?

……
……

側溝の上に出ている上半身を地面にうつ伏せに投げ出して、しょーもないことを考える俺。が、ふと顔を上げると、ついさっきまで必死で追いかけていた家出猫のシマちゃんが、ほんの目と鼻の先、知らん顔で毛づくろいしてるではないか。

……あたしをつかまえてごらんなさ~い、ってか?

ふ、待ってろシマちゃんめ。人を散々翻弄しやがって。捕まえたら、飼い主の香山さんが即、獣医さんに連れて行くって言ってたぞ。何たって、家出も五日め、蚤とかダニとか病気とか心配だから、いっぱい検査してもらうってさ。

獣医さんが嫌いらしいなぁ、シマちゃんよ。
ふっふっふ。

我ながら邪悪な笑顔を浮かべながら、俺は勢いをつけて側溝から脱出し。家出ペット捕獲用の小さい網を、構える!





・2月18日 世の父親の憧れ?

雪混じりの風が吹きつけて、寒い。
寒いけど、ののかのくれたバレンタイン・プレゼントのマフラーはあったかい。

手編みだぜ? 娘の手編み! 世の父親族の憧れ! 編み目が不ぞろいだろうと気にならない。……元妻と暮らしてるから、普段会えないけどさ。その元妻はお揃いの毛糸で手袋編んでくれた。

まあ、何というか。

俺ってさ、バツイチ男にしては、けっこうというか、かなりというか、ものすごく幸せなんじゃないかな? って思ってる。


って、グレートデンの伝さんの散歩中に出合った富田さんに言ったら、いきなり機嫌が悪くなって、フンッ! て思いっきり鼻を鳴らして走り去った。俺と伝さん、しばしぽかーん。何でだ? マフラーのこと聞かれたから答えただけなのに。

……なんか、目に涙が浮かんでたみたいだけど。

……
……

んん? そういえば、富田さんとこって、このあいだから奥さんが娘さん連れて実家に帰ってそのまんま、とかいう噂を聞いたような……何でも、奥さんの蔵書を勝手に捨ててしまったとか……。

良く分からないけど、早く謝ったほうがいいよ、富田さん。
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