第284話 雨の日のナツコちゃん

文字数 1,315文字

・9月19日 辛いは辛い

端っこが、辛い。

何がって、大根。「大きな根」の、根っ子の方。

冷蔵庫で、サンマの塩焼き用に買っておいた大根を見つけたんだ。すっかり忘れてたけど。で、せっかくだから、それを使って昼飯にツナおろし冷やしうどんを作った。

切りやすかったから、根っ子の方から五、六センチほど切り落として皮を剥き、手早くおろしがねで摩り下ろした。ちょっと量が多かったかな、と思いながらも、茹でて氷で冷やしておいたうどんに冷たい出汁を加え、上から大根おろしを汁ごと回し掛けて、ツナともみ海苔をトッピング。

さて、さっさと掻き込んで次の仕事に急ごうとひと口含んで噛み締めたら。

辛い。ハンパなく辛い。……ちょっぴり涙目になってしまったくらいだ。

こんな辛い大根に当たったのは久しぶりだ。大根は根っ子の方が辛いとは知ってたけど、ここまでとは思わなかった。

「辛い」って、「つらい」とも読むんだよなと実感した、昼間はまだまだ暑い、初秋の午後。





・9月27日 風呂の蓋の上は極楽

風呂のドアを開けたら、湯船の蓋の上に居候の三毛猫。

九月も下旬になって、ようやく涼しく、というより、数日前から夜は寒いくらいになった。蓋が快適でぬくぬくなのは分かるけどさ。俺、風呂入りに来たんだから、そこをどけ。

ふにゃっ!

「何すんだ!」とばかりに、だらけた姿勢から瞬時に顔を上げる三毛猫。その宝石みたいな色の目で、非難がましく俺を見る。

いやー、でもさ、やっぱり触るだろ、ツンツンするだろ、普通。
そんな無防備にピンクの肉球見せられたら。





・9月30日 彼岸花は唐突に

ちょっと太り気味のコーギー、コロンちゃんと朝の散歩で公園へ。
そしたら。

ばばーん。

──いや、「ドォーン」でも「ズザッ」でも「ザッ」でもいいんだけども。

彼岸花ってやつは、どうしていつもこんなふうに、いきなり壁のように出現するんだろうか。一昨日ここ通った時は、確かに彼岸花のひの字も見当たらなかったのに。

演出なのか? 自己プロデュースしてるのか? 彼岸花たち。

確かに、一瞬で目を引きつけられるけれど。

家に持って帰って飾っておくと火事になる、とかいう迷信があるけど、こいつら見てるとそんな迷信も信じられるような気がしてくる。

だって、赤いんだ。
生き生きと、燃えるように赤いんだ。

綺麗なんだけど、何だか……何なんだろ。





・10月4日 雨の日のナツコちゃん

今日は朝から大雨。

そんな中、セントバーナードのナツコちゃんと散歩に行った。どうしてそんなに楽しそうにあちこち鼻突っ込むんだ、ナツコちゃん……レインコート着てるのに、泥だらけだよ。

途中で会ったグレートデンの伝さんは、飼い主の吉井さんとお散歩。ナツコちゃんが遊ぼうっていうのもクールにかわして挨拶を受けるのみ。渋いぜ。ま、シーズンじゃないからな。

だからナツコちゃん、飛びつくのはよせって!

……
……

俺、公園のぬかるみに仰向け。顔舐めなくていいから、ナツコちゃん。あ、伝さんと吉井さんが心配そうに見てる……。

うん、大丈夫。土の上で水死するの嫌だし。だからナツコちゃん、俺の胸の上に乗せた前脚、よけてくれるかな?

ナツコちゃんも、これさえなければ明るくて人懐こくていい子なんだけどねぇ……。
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