第286話 野良で生きる猫よ……

文字数 1,212文字

・10月18日 野良で生きる猫よ……

朝と夕方は、本当に冷えるようになった。昼間は……気温はそうでもないんだろうけど、陽に当たってると暑い。

そんな微妙な日和の、十月の昼下がり。日当たりのいい地べたで、野良猫が寝てた。

ただ寝てるだけならよく見かけるけど、でっぷりと太ったサバトラのこの猫、仰向けで熟睡してた。腹出して。ついでに、タマタマも丸見えだ。

……野良の危機感とか、生存本能とか、そういう色んなものを忘れてるとしか思えないその姿。こいつ、これからも無事に野良をやっていけるんだろうか、とちょっとだけ心配になった。

おい、サバ。せめて歩行者に踏まれないよう、気をつけろよ。





・10月21日 魔女の一突き

魔女の一突き。

ぎっくり腰のことだけど。

小雨もよいの今宵は冷えるので、鍋焼きうどん作って食べてた。半額だった地鶏の胸肉が思いのほか美味く、はふはふ食べきって身体が温まった、というよりちょっと暑くなって、ほー、と溜息をついていた時。この間の大雨の後、樋掃除を請け負った戸浦さんから緊急の依頼が。

うん。ぎっくり行っちゃったんだって、腰が。たまたま奥さんも出張中で、家には誰もいないとか。とにかく、身動きが取れないというので、鍋もそのままに戸浦さんちまで自転車を飛ばした。電話で聞いていたとおり、玄関の鍵はまだかかっておらず、一応声を掛けてお邪魔してみたら。

戸浦さん、冷蔵庫の前で固まってた。ドアも開いたまま。

奥さん作り置きのカレーを取り出そうと屈んだ瞬間、ぎくっ! と来たらしい。幸い携帯をポケットに入れてたんで、そろそろとそれを引っ張り出し、以前の履歴を辿って何とか俺に連絡を取ってきたんだそうだ。……戸浦さん、ほんの二ヶ月ほど前に引っ越してきたばかりだから、他に頼る先を思いつかなかったんだろうな。

救急車は大袈裟で嫌だというので、タクシーを呼び、運転手さんにも協力を願ってなんとか救急病院まで連れていった。とにかく言葉も出ないほど痛いらしく、脂汗をにじませて本当に辛そうだった。

息をするのも痛いって、どんなんなんだ……。

戸浦さんが処置を受けている間、照明が普段の半分ほどに落とされた待合室で待ちながら、俺も魔女の一突きには気をつけなければ、と心に誓った。

誓っても、なる時はなるらしいんだけどさ……。





・10月23日 「こたつ初め」、ならず。

夜、しみじみと冷えるようになってきたんで、こたつを出すことにした。コンクリート打ちっぱなしのこの部屋は、日が落ちるとすぐ寒くなる。

去年、このために増設した畳エリアにこたつをセット。こたつ布団もきれに洗って仕舞っておいたし、完璧だ。と、思ったら……。

もしかして、壊れてる? 待てど暮らせどちっとも暖かくならない。

今夜は鍋にしよう!なんてわくわくしてたのに、がっくり。○国製だったからなぁ……。

「安物買いの銭失い」という言葉が浮かんだ。ちょっとくらいお高くても、やっぱり国産の買っときゃ良かった。
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