第259話 わんこも俺もコタツが好き

文字数 1,732文字

・12月17日 わんこも俺もコタツが好き

空は爽やかに晴れて、冷える。

グレートデンの伝さん、セントバーナードのナツコちゃんの散歩が終わって、俺は今、柴犬のシーバくんと朝の公園を歩いている。

「寒いなぁ、シーバくん」

「わん」

ハッハッハッ、と吐く息は真っ白だけど、シーバくんは元気いっぱいだ。

「冬用の毛皮になっても、やっぱり寒いかい」

「わふん」

「そっかー。シーバくんはコタツが大好きだもんなぁ」

「わん!」

シーバくんちには猫のゴローちゃんが同居してるんだけど、ゴローちゃんは暑がりらしく、コタツ布団の上で丸くなっても、中には滅多に入らないんだそうだ。その代わりにシーバくんが潜り込んでて、この子たちは中身が逆なのかも、と飼い主さん笑ってた。

「コタツはいいよなぁ。あれは日本人の生み出した最高の発明品だと思うんだ……」

俺ん家、というか、事務所兼住居に借りてるあのコンクリート打ちっぱなしのボロビルは、冬は本当に冷える。夏も暑いというより熱いけどそれはともかく、寒くなってくると、容赦なくこっちを凍らせにかかってくる。ちなみに夏は茹でてくる。

初めは湯たんぽでしのいでたんだけど、どうにも寒くてたまらなかった。風邪を引いて寝込み、娘のののかや元妻や元義弟の智晴に叱られてからは、暖房にも気を遣うようになった。エアコンも使うようになったし、部屋の隅にすのこと断熱材で擬似床を作製し、その上に畳を敷いてプチ和室エリアを作り、どーんとコタツを置いている。

冬場はそこにノートパソコンを置いて顧客管理や売り上げ入力なんかの事務仕事をするんだけど、足元が温かいとついついコタツに潜り込んでしまい、先に入っていた居候の三毛猫に猫キックされながら、いけないいけないと思いながらも気持ちのいい転寝を……。

「コタツ、いいよな!」

ダメな自分を誤魔化すように、シーバくんに声を掛ける。

「わんわん!」

最高だよ! というように、シーバくんは俺を見上げてバシバシと尻尾を振ってくれる。

一人と一匹、意気投合して蒸気機関車のように白い息を吐きながら、公園を歩く。遠くから響く低いエンジン音に目を上げると、そこにはシルバーグレイの旅客機。空はまだ薄い青だけど、これからもっと青くなるだろう。

今日はいいお天気だ。





・12月18日 猫と枯れ落ち葉

今日も晴天、青い空。

風に舞うように、くるくると回りながらいくつも落ちてくる茶色の葉っぱを横目で見ながら落ち葉掻き。

明るい日差しを弾きながら舞い踊るその様子は幻想的だけど、てんでに転がって掃きにくいことこの上ない。枯れた葉の縁がくるんと巻いて、ちょうどよく風を受けるものだから、地面に落ちたそばからカサカサさわさわ、生き物みたいに転げまわって箒から逃げるみたいだ。

そんな枯れ落ち葉を狙って、飛びつく野良猫が一匹。

逃げる落ち葉、追いかける猫。狙いをつけて飛び掛って、あと少しというところで風が吹き、猫はわさわさと吹き溜まる落ち葉たちに埋もれてしまった。

「にゃあ!」

ひと声鳴いて逃げる猫。今度は落ち葉に追いかけられる。走って、跳んで、パンチを繰り出して、追いついた落ち葉の塊に蹴りを入れる。そのまま転がって、俺がせっかく掃き集めた山に突っ込んで……。

「こら、営業妨害だぞ」

そう声を掛けると、ぴゃーっと走って逃げて行った。遠くのほうでこっちを窺うその姿を見ながら、猫は何でも楽しくていいなぁ、と苦笑していると、散らされた落ち葉の山の中に何かキラッと光るものを発見。

「ん?」

軍手を穿いた手で掻き分けてみると、それは何の変哲も無い鍵。落ち葉に埋もれていたのかな、掃き集めてるときは全然気づかなかった。

「あ……」

でも、ちょっと驚いた。刻印された数字が元妻の誕生日と同じ。こんな偶然もあるんだなぁ。それにしても、落とした人が困ってるだろう。これが終わったらすぐ交番に届けに行こう。

「お前。お手柄だぞ」

まだこちらを狙っている猫に摘んだ鍵を振って見せると、またダダーッと走ってきて、俺の足をパシッと叩いて逃げて行った。

遊んでくれてると思ってるのかな。猫は何ででも遊ぶからなぁ。あいつら遊びの天才だ。

ん? てことは俺のほうが遊ばれてたのか。いいけど。単調な仕事のひととき、無邪気な猫の戯れは癒しだ。
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