第215話 男の料理教室 1
文字数 1,854文字
「まず用意するものは、豆腐。絹ごしより木綿豆腐のほうが扱いやすいですので、おすすめです」
俺は、おごそかに告げた。
「はあ……」
気の抜けた返事にめげず、俺は続ける。
「次に鶏ひき肉。土生姜。料理酒。片栗粉。それから、ヒ○シ○ルうどんスープ」
「ヒ○シ○ルうどんスープですか? シ○ヤだしの元じゃダメなんですか?」
「この場合、ベストなのがヒ○シ○ルうどんスープです。シ○ヤだしの元やこんぶ出汁もいいんですが、味を調えるのにはコツがいります。初心者にはヒ○シ○ルをおすすめします」
うどんはもちろんのこと、澄まし汁や茶碗蒸しにも使えますと教えると、野間さんはすぐ買いに行きますと答えた。
「では、具体的な手順に入ります。メモはちゃんと取ってますか?」
俺の問いに、野間さんはこくこくと頷く。素直だな。
「まず、土生姜の皮を剥きます。大きさは好みによりますが、豆腐一丁ならだいたい親指くらいの大きさでいいです。それから、それをみじん切りにしておきます。
「おろし金ですりおろすのはダメなんですか?」
「うーん、手順を変えなくてはならなくなるので、今回はみじん切りを使う、と覚えておいてください」
「はい……」
「それから、中華鍋を熱します。フライパンでもOKです。火の勢いは中火で」
必死になってボールペンを握る野間さん。箇条書きでいいんですよ? とアドバイスしておく。
「うっすらと煙が出てきたところで、ごま油を入れます。だいたい大匙一杯くらい。いれたごま油を、中華鍋の内側にまんべんなく行き渡らせます。行き渡ったら、土生姜のみじん切りを入れ、香りが出るまで炒めます」
「鶏ひき肉はいつ入れるんですか?」
「はい、鶏ひき肉はここで入れます。入れたらすぐに、フライ返しで生姜みじん切りとひき肉の上下を入れ替えるように混ぜます。生姜みじん切りは焦がさないように」
「はい」
「ひき肉に火が通る前に、塩ひとつまみと酒を回しかけます。酒は大体でいいんですが……俺は五十ccくらい入れますね。掻き混ぜながら、焦げないように柔らかく火を通します。その間に豆腐を適当に賽の目に切ります」
「さいのめ、ってどういう……」
「あー、小さい四角です。適当でいいんですよ、何なら切らずにそのままひき肉の中に混ぜてもいいです。見場は悪くなりますが、味が変わるわけではないですし」
「そ、そんないい加減でいいんですか?」
不安そうな野間さんに、俺は重々しく頷いてみせた。
「いいんです、いい加減で。男の料理なんてそんなもんです。本当をいえば、豆腐は水切りをした方がいいんですが、ここはあえてそのままでいきます」
「はぁ……」
「さて、豆腐を投入して、火が通ってきたな、と思ったら、弱火にします。そして、今度は片栗粉を水で溶いたものを作ります。割合は1:1が基本ですが、少々水が多くても問題ありません。分量はだいたい大匙一杯ずつです」
「はい……割合は1:1、と」
野間さんがメモを取るのを横目に見つつ、片栗粉を水で溶いていた俺は、肝心な過程をすっぽかしたことを思い出した。
「すみません、ヒ○シ○ルうどんスープを入れるの忘れてました」
「え? こ、ここまで作って失敗ですか?」
青ざめた顔でメモを取り落とす野間さん。いやいや、そんな深刻にならなくても。
「いえ、まだ間に合います。片栗粉を入れる前で良かった」
「そ、そうなんですか?」
俺はヒ○シ○ルうどんスープの袋を開けながら頷いた。
「スープの元を加えるタイミングは、豆腐を投入する前がいいでしょう。ですが、豆腐を入れてしまってからでも大丈夫。豆腐がよけいに潰れてしまうというだけで、味に変わりはありません」
袋の中身をざっと中華鍋の中に振り入れ、またざっくり混ぜ込んだた。
「順番が少し違ってしまいましたが、ここで火をちょっと弱火にします」
「弱火って、どれくらい・・・」
「これくらいです」
俺は調節したコンロの火を示した。
「それから、さっき作っておいた水溶き片栗粉を入れます。一度に全部入れてしまわないように。そんなことをすると、一部だけ固まってダマになります。だから、少しずつ流し入れつつ、同時にフライ返しで混ぜるのがコツです。慌てないように」
「これでトロミがつくんですね……」
「そうです。弱火でしばらくそのまま煮るんです。トロミがつくまで焦らないように」
くつくつくつ。中華鍋の中身が煮えてきた。いい匂いだ。
が──。
「ちょっと水を足したほうがいいかもしれませんね……うん、足しましょう」
「え? どうしてですか?」
※ 作者はヒガシ○の回し者ではありません。
俺は、おごそかに告げた。
「はあ……」
気の抜けた返事にめげず、俺は続ける。
「次に鶏ひき肉。土生姜。料理酒。片栗粉。それから、ヒ○シ○ルうどんスープ」
「ヒ○シ○ルうどんスープですか? シ○ヤだしの元じゃダメなんですか?」
「この場合、ベストなのがヒ○シ○ルうどんスープです。シ○ヤだしの元やこんぶ出汁もいいんですが、味を調えるのにはコツがいります。初心者にはヒ○シ○ルをおすすめします」
うどんはもちろんのこと、澄まし汁や茶碗蒸しにも使えますと教えると、野間さんはすぐ買いに行きますと答えた。
「では、具体的な手順に入ります。メモはちゃんと取ってますか?」
俺の問いに、野間さんはこくこくと頷く。素直だな。
「まず、土生姜の皮を剥きます。大きさは好みによりますが、豆腐一丁ならだいたい親指くらいの大きさでいいです。それから、それをみじん切りにしておきます。
「おろし金ですりおろすのはダメなんですか?」
「うーん、手順を変えなくてはならなくなるので、今回はみじん切りを使う、と覚えておいてください」
「はい……」
「それから、中華鍋を熱します。フライパンでもOKです。火の勢いは中火で」
必死になってボールペンを握る野間さん。箇条書きでいいんですよ? とアドバイスしておく。
「うっすらと煙が出てきたところで、ごま油を入れます。だいたい大匙一杯くらい。いれたごま油を、中華鍋の内側にまんべんなく行き渡らせます。行き渡ったら、土生姜のみじん切りを入れ、香りが出るまで炒めます」
「鶏ひき肉はいつ入れるんですか?」
「はい、鶏ひき肉はここで入れます。入れたらすぐに、フライ返しで生姜みじん切りとひき肉の上下を入れ替えるように混ぜます。生姜みじん切りは焦がさないように」
「はい」
「ひき肉に火が通る前に、塩ひとつまみと酒を回しかけます。酒は大体でいいんですが……俺は五十ccくらい入れますね。掻き混ぜながら、焦げないように柔らかく火を通します。その間に豆腐を適当に賽の目に切ります」
「さいのめ、ってどういう……」
「あー、小さい四角です。適当でいいんですよ、何なら切らずにそのままひき肉の中に混ぜてもいいです。見場は悪くなりますが、味が変わるわけではないですし」
「そ、そんないい加減でいいんですか?」
不安そうな野間さんに、俺は重々しく頷いてみせた。
「いいんです、いい加減で。男の料理なんてそんなもんです。本当をいえば、豆腐は水切りをした方がいいんですが、ここはあえてそのままでいきます」
「はぁ……」
「さて、豆腐を投入して、火が通ってきたな、と思ったら、弱火にします。そして、今度は片栗粉を水で溶いたものを作ります。割合は1:1が基本ですが、少々水が多くても問題ありません。分量はだいたい大匙一杯ずつです」
「はい……割合は1:1、と」
野間さんがメモを取るのを横目に見つつ、片栗粉を水で溶いていた俺は、肝心な過程をすっぽかしたことを思い出した。
「すみません、ヒ○シ○ルうどんスープを入れるの忘れてました」
「え? こ、ここまで作って失敗ですか?」
青ざめた顔でメモを取り落とす野間さん。いやいや、そんな深刻にならなくても。
「いえ、まだ間に合います。片栗粉を入れる前で良かった」
「そ、そうなんですか?」
俺はヒ○シ○ルうどんスープの袋を開けながら頷いた。
「スープの元を加えるタイミングは、豆腐を投入する前がいいでしょう。ですが、豆腐を入れてしまってからでも大丈夫。豆腐がよけいに潰れてしまうというだけで、味に変わりはありません」
袋の中身をざっと中華鍋の中に振り入れ、またざっくり混ぜ込んだた。
「順番が少し違ってしまいましたが、ここで火をちょっと弱火にします」
「弱火って、どれくらい・・・」
「これくらいです」
俺は調節したコンロの火を示した。
「それから、さっき作っておいた水溶き片栗粉を入れます。一度に全部入れてしまわないように。そんなことをすると、一部だけ固まってダマになります。だから、少しずつ流し入れつつ、同時にフライ返しで混ぜるのがコツです。慌てないように」
「これでトロミがつくんですね……」
「そうです。弱火でしばらくそのまま煮るんです。トロミがつくまで焦らないように」
くつくつくつ。中華鍋の中身が煮えてきた。いい匂いだ。
が──。
「ちょっと水を足したほうがいいかもしれませんね……うん、足しましょう」
「え? どうしてですか?」
※ 作者はヒガシ○の回し者ではありません。