第285話 激辛カレーは喉に来る

文字数 1,576文字

・10月6日 NNNの陰謀か……

三丁目の小宮山さんは大の猫嫌い。なのに、愛犬のシェパード・キラ君が、どこからか仔猫を二匹も拾ってきたんだそうだ。

いつも家にいる時はリードを外してもらい、庭で穴掘りなど愉しんでいるキラ君だが、勝手に外に出たのは初めてだそうだ。てか、それなりに高い塀なのに、どうやって出たんだ、キラ君。

小宮山さんは今、仔猫の処遇に苦悩しているという。

飼い主の心、愛犬知らず。キラ君は毎日生き生きと仔猫の世話をしているらしい。

愛犬の無言の要求に負けて、小宮山さん、猫用ミルクは買ったそうだ。





・10月11日 浪曲カラオケ?

連休三日目。行楽や帰省の間のペットの世話も今日でひと段落。何事もなく過ぎて良かった。

そんな俺は、喉が痛い。

昨日、水無瀬の爺さんに自宅カラオケ付き合わされたから、そのせいだと思う。爺さん、素人に浪曲は難しいと思うよ。たしかに、広沢虎造の清水の次郎長伝は面白いけどさ、俺、あんなふうに謡えないから。

てか、なんでカラオケにそんなんあるんだ?

もしかしたら、爺さんが趣味で作成したのかもしれない。御年七十で難しい音楽ソフトとか使いこなすお方だからなぁ。俺にはとてもとても。

 旅ゆけばぁ~ああ 駿河の国に茶の香りぃ~♪

っと。いけねぇいけぇね、うつっちまったぜ。





・10月12日 激辛カレーは喉に来る

垂れ耳がラブリーなスコティッシュフォールド、ねねちゃんの飼い主古谷さんから、激辛カレー大盛り三百円の割引券をもらった。

タイ風インド風日本風、あらゆるカレーを網羅する人気店のものらしく、常に混んでいるそうだ。でも昼時をずらしたから、行列も無く楽勝。

そして、今。昨日より喉痛い。

うん、喉荒れてる時に、刺激物は良くなかったね。ガツンと来たよ、喉粘膜に。

どうしよう、困った。このままだと風邪一直線な気がする。よく分からないけど、とりあえずヨーグルト食べて喉飴舐めておこう。





・10月16日。 彼岸花の夢と、狛犬きょうだい

何も無かった場所に、ある日忽然と現れて、真っ赤な炎のように咲き乱れていた彼岸花たち。

勢いがあったのはほんの数日。今はもう、見る影も無くすがれている姿が多く見られるようになった。

あれってさ、うっかり霜に当ててしまったクリスマスカクタス(別名:カニサボテン)と似てるよな。なんかこう、溶け崩れたみたいになるの。

クリスマスカクタスは、いっぺんそうやって失敗するとすっかりダメになってしまうけど、彼岸花はまた来年咲くんだよな、逞しく。なんだろな、あの生命力。いや、それが悪いってわけじゃないんだけど。

そんなこと考えてたら。                       
昨夜、変な夢を見た。

どっか知らない山の中の道を、一人で歩いてる。周囲は荒れた田んぼ。空は暗いのに、畦道に乱れ咲く彼岸花の群れだけが、やたらに赤くて鮮やかで。

風も吹かず、他に生き物の気配もなく。

てこてこ歩いてると、見えてきた小さな祠。周囲は薄暗いのに、何故か、崩れかけた土台の様子まではっきり見える。俺、そっちに行きたくないのに、足は止まらない。だんだん近づいていく。

それまで何も感じなかったのに、俺、急に怖くなってきて。なのに、祠から目が離せない。

どうしよう、どうしよう、誰か、助けてくれ! ──そう、心の中で叫んだと思う。

そしたら俺の足元に、忽然と白い仔犬が現れた。二匹いるそいつらは、すごく楽しそうにじゃれあいながら、俺の周りをぐるぐる走り回る。踏まないように気をつけてると、後ろからどっちかが膝裏に頭突きするから、俺、膝かっくん状態で転んで……。

そしたら、目が覚めた。

何だったんだろ、あれ。もかしたら俺、助けられたのかな、あの仔犬たちに。

そういえば、あれって俺の知ってるあの狛犬きょうだいだったのかもしれない。ま、ただの夢なんだけど……でも、不思議な夢だったな。
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