第187話 夜の鏡

文字数 1,051文字

十二月十一日

夜中に目が覚めた。寝る前にお茶飲んだのが悪かったのかな。

パイプベッドの下にずり落ちた半纏を拾って羽織り、娘のののかがくれた“あったかどうぶつスリッパ・ひつじさん”に足を入れる。……コンクリート打ちっ放しの床はやっぱり冷えるよな。もらい物の毛足の長い玄関マット、もとい、ラグを足元に敷いてはいるけど。

じわりと襲い来る寒さと戦いながら、真っ暗な部屋をぺたぺた横切ってトイレへ。変形三角のぼろビルだけど、バス・トイレ別々なのがありがたい。タイルの床は寒いけどな。

……冷えてきた。早くベッドに戻らなくては。

氷のような隙間風の這い出してくるドアを閉めて、またぺたぺた。

ん?

事務室というかリビングのカーテン、閉め忘れたか。真っ暗な窓の向こうに夜明け前のまばらなネオン。

いかんいかん、防犯意識低いぞ、俺。ちゃんと閉めなきゃ。
窓ガラスに映る眠たそうな男に、年甲斐もなくあかんべーをし、しゃっとカーテンを閉めた。

ふー、さぶさぶ。ん? 居候の三毛猫め、勝手にもぐりこみやがっていつの間に。そーかそーか、布団をあっためてくれてたんだな。木下藤吉郎かお前は。ほれ、足元にどけろ。邪魔邪魔。

明日は犬の散歩の仕事が入ってないから、明るくなるまでゆっくり眠れるな。ふあぁ、欠伸が出る。もっぺん寝るべ寝るべ。

あともう少しで眠りに落ちそうというところで、俺、気づいたらがばりと跳ね起きていた。いや、だって、だってさ。

部屋は真っ暗だったというのに、どうして窓ガラスに自分の姿が映ってたんだ?

……
……

深く考えてはダメだ。
寝よう! とにかく寝てしまおう。それが一番。




十二月十三日

雨の切れ目を縫って犬の散歩。

久しぶりの伝さん、俺の顔を見てうれしそうに尻尾を振ってくれる。顔はクールなんだけど、こういうところが正直っていうか、俺もうれしい。

「元気にしてたか、伝さん」

「おぅん!」

「そっか。ツヤツヤしてるもんな」

「おん!」

「何ていうか、伝さんてホント地獄の番犬のようにカッコイイよな。そんなもん見たことないけど」

「おうん?」

会話(?)しながら歩く、一人と一匹。傍から見たら、怪しいだろうなぁ。

「なー、伝さん、俺、このあいだ深夜に怖いもん見ちゃってさー」

「ふん?」

「寝ぼけて、夢でも見たんだと思うけど……伝さんも夢、見るかい?」

「おんっ!」

何となく、会話が成立してしまってるのが、一番のミステリーかもしれない。
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