第322話 送りわんこ
文字数 1,247文字
・7月28日 草むしりと、かつてそこにいたわんこ
今日は吉良さんちの草むしり。
え? 草刈りと草むしり、どう違うのかって?
生い茂った草を手っ取り早く刈り取ってしまえ、というのが草刈り。根っ子はほぼ放置。
生い茂った草を根っ子から抜いて毟るのが草むしり。
そんなわけで、草刈り機を使わない草むしりの方が手間がかかる──そうえば、某美男俳優さんが芸名にちなんだ草刈り機のCMしてたな。本人さん、あれっていいのかな……。
いかんいかん、無心になるあまり、トリップしてしまった。
それにしても、今日は暑いけど爽やかだ。空き地の草刈りした一昨昨日 はもう、暑くて暑くて死ぬかと思った。気温が五度ほども違うよなぁ。
最高気温が三十七度だったり三十二度だったり。
恐るべし、日本の夏。
「わっ!」
鼻先にカメムシ。反射的にワンパンチで撃退したら、あの臭いが……!
「くさっ!」
とにかく撤退。軒先の日陰に退避。直撃をくらったせいか、くしゃみ連発。
息を整えるのに、帽子を脱ぐ。ついでに首にかけていたタオルで顔や首回りを拭いた。
あー臭かった……と脱力してたら、大型犬のハッハッハ、という息遣いの音とともに、べろり、とほっぺたを舐められる感触がした。ドンマイ、って感じで。よく散歩を頼まれるグレートデンの伝さんもこんなふうに舐めてくれるよなぁ。
吉良さんちのわんこかな?
ありがとよ、と撫でてやろうと振り返ったら、いない。
あれ?
目を凝らすと、庭の向こう、道路側の生垣の隙間から、シェパードらしい犬のシルエットが見えた。あれ、しましま柄の犬もいる……? とぼーっとしてたら、すーっと消えてしまった。
動きが早すぎる……って。
あれ? あれれ?
・同じ日 送りわんこ
ちゃっちゃっちゃっちゃっ
後ろからついてくる、
ちゃっちゃっちゃっちゃっ
大型犬の足音。
気のせい?
うん、きっと気のせい。
吉良さんちの草むしりが終わって、今は昼飯食べに帰る途中だ。真夏のこんな昼日中、犬の散歩をさせる人なんていないし。
ちゃっちゃっちゃっちゃっ
この辺りに野良犬はいない。
だからこれは気のせい。
カメムシ・アタックのダメージを引きずりながら草むしりを終えると、吉良さんが冷たい葛の和菓子と麦茶を出してくれた。顔色が悪い……熱中症? と心配されたんだけど、これは単にカメムシ臭の直撃を受けたせいです……。
あれは、クサイ。
それでも吉良さんは心配して、保冷剤をハンドタオルに包んだのを用意してくれたので、ご厚意をありがたく頂き、頭に乗せて帽子を被った。これ、充分自宅まで保つよ。冷たくて気持ちいい。
ほう……。
「──お姉ちゃんたちが待ってるぞ?」
前を向いたまま、なんとなく後ろに向かって声を掛けると、
ちゃっちゃっ……ちゃっ……ちゃっ……
足音が遠ざかって行った。
吉良さんが、途中で倒れたりしないだろうかと俺を心配してくれたから、それで主人の代わりに送ってくれたんだろうなー、なんて。
気のせいだ、気のせい。
それにしても、頭のてっぺんが冷たいのが気持ちいい。保冷剤、こんな使い方もいいよなぁ。
今日は吉良さんちの草むしり。
え? 草刈りと草むしり、どう違うのかって?
生い茂った草を手っ取り早く刈り取ってしまえ、というのが草刈り。根っ子はほぼ放置。
生い茂った草を根っ子から抜いて毟るのが草むしり。
そんなわけで、草刈り機を使わない草むしりの方が手間がかかる──そうえば、某美男俳優さんが芸名にちなんだ草刈り機のCMしてたな。本人さん、あれっていいのかな……。
いかんいかん、無心になるあまり、トリップしてしまった。
それにしても、今日は暑いけど爽やかだ。空き地の草刈りした
最高気温が三十七度だったり三十二度だったり。
恐るべし、日本の夏。
「わっ!」
鼻先にカメムシ。反射的にワンパンチで撃退したら、あの臭いが……!
「くさっ!」
とにかく撤退。軒先の日陰に退避。直撃をくらったせいか、くしゃみ連発。
息を整えるのに、帽子を脱ぐ。ついでに首にかけていたタオルで顔や首回りを拭いた。
あー臭かった……と脱力してたら、大型犬のハッハッハ、という息遣いの音とともに、べろり、とほっぺたを舐められる感触がした。ドンマイ、って感じで。よく散歩を頼まれるグレートデンの伝さんもこんなふうに舐めてくれるよなぁ。
吉良さんちのわんこかな?
ありがとよ、と撫でてやろうと振り返ったら、いない。
あれ?
目を凝らすと、庭の向こう、道路側の生垣の隙間から、シェパードらしい犬のシルエットが見えた。あれ、しましま柄の犬もいる……? とぼーっとしてたら、すーっと消えてしまった。
動きが早すぎる……って。
あれ? あれれ?
・同じ日 送りわんこ
ちゃっちゃっちゃっちゃっ
後ろからついてくる、
ちゃっちゃっちゃっちゃっ
大型犬の足音。
気のせい?
うん、きっと気のせい。
吉良さんちの草むしりが終わって、今は昼飯食べに帰る途中だ。真夏のこんな昼日中、犬の散歩をさせる人なんていないし。
ちゃっちゃっちゃっちゃっ
この辺りに野良犬はいない。
だからこれは気のせい。
カメムシ・アタックのダメージを引きずりながら草むしりを終えると、吉良さんが冷たい葛の和菓子と麦茶を出してくれた。顔色が悪い……熱中症? と心配されたんだけど、これは単にカメムシ臭の直撃を受けたせいです……。
あれは、クサイ。
それでも吉良さんは心配して、保冷剤をハンドタオルに包んだのを用意してくれたので、ご厚意をありがたく頂き、頭に乗せて帽子を被った。これ、充分自宅まで保つよ。冷たくて気持ちいい。
ほう……。
「──お姉ちゃんたちが待ってるぞ?」
前を向いたまま、なんとなく後ろに向かって声を掛けると、
ちゃっちゃっ……ちゃっ……ちゃっ……
足音が遠ざかって行った。
吉良さんが、途中で倒れたりしないだろうかと俺を心配してくれたから、それで主人の代わりに送ってくれたんだろうなー、なんて。
気のせいだ、気のせい。
それにしても、頭のてっぺんが冷たいのが気持ちいい。保冷剤、こんな使い方もいいよなぁ。