第226話 唐辛子仲間はどれも暴君

文字数 1,489文字

・3月15日 唐辛子仲間はどれも暴君・

これって、ある意味BC兵器だと思う。

「──~~~!」

声も無く悶絶する俺。ひりひりする、てか、熱い。

昼飯に、ペペロンチーネを作った。それはいい。我ながら美味かった。ちょっとニンニクと鷹の爪を焦がしたけど。

いけなかったのは、うっかり眼を擦ってしまったことだ。鷹の爪を触った後の指で。いや、手は洗ったさ。だいたい、食器洗いも済ませた後だ。それでもダメなんだ、鷹の爪は。

──知らなかったよ、そんなこと。

またひとつ、食材の基本を知ることが出来たけど。

「~~~~!」

眼の粘膜に、鷹の爪は凶器だ。たとえ、痕跡程度のものだったとしても。
……とりあえず、流水で眼を洗おう。

「うわっ!」

蛇口から出る水に顔を横にして近づけたら、うっかり頭まで水を被ってしまった。

眼は痛いし、冷たいし。今日は厄日かもしれん。
外は、いい天気だなぁ……。





・3月16日  何事もほどほど、がジャスティス・

今日は暖かかった。

暖かすぎて、汗かいた。体力のいる大型犬(グレートデンの伝さんとか、シェパードのドンちゃんとか)の散歩に、引越しの手伝いじゃ、な……。

汗かいて、冷えて寒い。

ヤバイ。風邪なんてひいてるヒマはないんだ。熱出したら娘のののかに怒られるし、元妻や元義弟にも怒られる。何でも屋は身体が資本!

と、いうことで、着替えるぞ。それから、ビタミンCだ! このあいだ(ホワイトデーだ)広田のお婆ちゃんから小箱いっぱいもらったミカンを食べるぜ!

……

ちょっと食べ過ぎた、かな? は、腹が、腸の辺りが……猫が喉を鳴らすような音を……。





・3月17日 ポケットティッシュを求める理由・

昨日のミカンの食べ過ぎがまだ響いているらしく、腹の具合がイマイチ。それでも仕事は待ってはくれない。

ということで。

「ポケットを叩くとポケットティッシュがひとつ~ もひとつ叩くとポケットティッシュがふたつ~」

デタラメな歌を歌いながら、犬の散歩。狩野さんちのボーダーコリーのリコちゃん、まだ若いんで、元気いっぱい。……オジさん、若くない上に腹壊してるんで、お手柔らかに頼むよ、ホント。

ジャケットのポケットには、駅前でもらったポケットティッシュを左右に分けて四つ入れている。ジーンズのポケットにも一つ。備えあれば、憂いなし。

午後からの依頼で商店街まで買い物に行くから、駅前を回って行こう。遠回りになるけど。

あー、なんか冴えないなぁ。ま、いつものことか。太陽の光があったかいぜ。ふっ。





・3月18日 良照さんちの黒猫・

いつかの黒猫を見た。

やたらと迫力のある、大柄な猫だ。小型の黒豹、と譬えたくなるくらい。首輪をしてるからどっかの飼い猫なんだろうけど……。

そいつが塀の上で、何か四角くて黄色っぽいものを幸せそうに舐めてた。チーズかな? それにしてもでかい塊だなぁ、と思って眺めてて、気づいた。

あれ、石鹸。
側面の浮き出し模様に見覚えがある。確か、オリーブ石鹸だったと思う。

なんで、なんで猫が石鹸舐めてんだ? 美味いのか? てか、体に悪くないのか? いや、良くないだろう。そう思って、咄嗟に手を伸ばして石鹸を取り上げようとしたら。

ニヤリ。

としか表現のしようのない悪いカオをして、黒猫はひらりと塀の内側に身を躍らせた。驚いたことに、あのでかい石鹸をくわえたまま。

「……」

この家の表札は、「良照」。あの猫は、やっぱりここの飼い猫なんだろうか。

ニヤリ。──黒猫の口の中は真っ赤だった。

思い出すと、背中がぞくっとした。

……何も見なかったことにしておこう。そうしよう。猫が石鹸舐めるなんて! バカバカしい! ははははは、はぁ……。

怖っ!  
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