第249話 ピンクと黄色のあひる柄

文字数 1,430文字

・4月12日 ピンクと黄色のあひる柄

朝、雨の中。伝さんと散歩。

グレートデンの伝さんは、犬用のカッパを着ている。てか、俺が着せた。飼い主の吉井さんが用意した新品だ。前のはもう穴が開いちゃったからな。

だけどさ、吉井さん。

この厳つい伝さんに、ピンクと黄色のあひる柄ってどうなんですか?

前は普通の(?)白いやつだったのに。あ、でも、ちゃんと反射帯付きだった。暗い夜道で車のライトが当たったら、三本のラインがぴかーっと光るんだ。

……この新しいカッパは、黄色のあひる柄のところが反射帯になってるらしい。

「伝さん、着心地はどうだい?」

ちょうど顔に降り掛かる雨を避けながら、俺は訊ねてみる(俺も同じくカッパを着てるけど、ごく普通の透明のやつだ)。

「おんおん!」

え? そんなことより、俺の歩くのがいつもより遅い? ……そっか。そうだよな。伝さんにしてみたら、カッパの柄なんかどうでもいいよなぁ。

いよっ! 伝さん男前!





・4月13日 居候猫は野良猫の夢を見るか

昼間暖かかったのに、夜になると急に冷える。背中にぶるっと来たんで、思わずこたつに入ってしまった。……今月中に片付けられるかな、これ。コンクリートの床、冷えるからなぁ。

居候の三毛猫は、もっと前から中にもぐってたみたいだ。けど、最弱でもこたつのスイッチ入れたら暑くなってきたんだろう、ごそごそと出てきてこたつ布団の上で丸まってる。

いいなぁ、猫は。

気持ち良さそうな寝顔に、ふう、と息をつき、俺はノートパソコンに本日の依頼内容とか売り上げ(っていうのかな、報酬?)とか、必要経費とか、所要時間とか、そういう細々したものを打ち込んでいた。

こういうのは、マメにやらないと後々却って面倒だからなぁ。元々、事務仕事は嫌いじゃないし。

しばらくキーボードをカタカタやって、明日の予定を確認したりして、さてコーヒーでも飲むか、と立ち上がろうとした時。

ふみぃ、とか、ふにゃあ、とかいう声が。

どうした、三毛猫。目が覚めたのか? そう思ってそっちを見ると、さっきと同じ格好でまだ寝てる。変なやつ。

と。

ふにゃ、ふにゃにゃにゃにゃ! ふにゃにゃにゃにゃ!

──もしかして、夢見てんのか? 三毛猫よ。 しかも、悪夢? 魘されてるみたいだし。しょうがねぇなぁ。

妙な声を上げつつ、なおも眠ったままの三毛猫の頭を、ぽん、と軽く叩いてみる。すると。

はっ!

そういう擬音が聞こえてきそうなほど、びっくりした様子で眼を覚ます三毛猫。きょろきょろ周囲を見回すと、おもむろに毛づくろいを始める。心を落ち着けるためか?

話には聞いてたけど、猫もやっぱり夢見るんだな。初めて見たけど……コーヒー飲んでたら、絶対吹いてたぞ、おい。

ウケた。





・4月15日 飼い猫に、お外は寒い

寒い。昨日の比じゃない。

桜も散って四月もど真ん中だっていうのに、何だこの寒さは。今日は迷い猫探しをしたんだが、すぐに見つけることが出来た。その家の近くの<寒い時、猫がよくいるポイント>のひとつで、捨てられた猫みたいに心細そうに蹲ってた。だからさぁ、ちょっと窓が開いてたからって家出するなよ、梅田さんちのみーちゃんよ。

仕事柄、そういう類のポイントはデータベース化してあるんだ。……大学ノートに、タックシールでインデックス付けたやつだけどな。

本日もミッション・コンプリート。今夜は早いけどもう寝る。下手したら風邪引きそうだ。居候の三毛猫も、こたつの中に入って出てこないし。

こんな夜は、熱い風呂が身に沁みる。

くぅ……!
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