第320話 今は阪神している? トラ柄は夫婦喧嘩の産物

文字数 964文字

・7月21日 トラ柄は夫婦喧嘩の産物

連休三日目の今日、ようやく城山さんちのペンキ塗りに取りかかることが出来た。ここ数日のようにいきなり天気が崩れることもなく、乾きも早くて助かった。

城山さんもさぁ……自分で外壁を塗り替えようと頑張ったのはいいけど、ごく普通の民家なのに、黄色と黒のツートンカラーは無いと思うんだ。夫婦喧嘩のあてつけでやってしまったってことだけど……。

頭が冷えて塗り直そうと思ってたところに、会社からまさかの緊急出張命令。「ペンキ塗り直すから行けません」なんて言えるわけもなく、即日出社、即日出張。

……戻れるのは、ひと月先だそうだ。

「もう、恥ずかしくてご近所歩けなかったのよ!」

城山の奥さん、お怒りである。

これは、あれかな。衝動的な犯罪者の言う「むしゃくしゃしてやった。今は反省している」ってヤツかなぁ?

むしゃくしゃして塗った
壁なら何でも良かった
今は阪神している

「──ご主人、タイガースファンなんですか?」

思わず訊ねてしまった。

「この色じゃ、そう思われても仕方ないわよねえ……」

奥さんは苦笑い。

「単純に、その二色のペンキが安かったってだけらしいのよ。何色でもよかったみたい。バカよね、本人は巨人ファンなのよ」

「あはは……」

笑うしかない。夫婦喧嘩って怖いな~。はは。

「でも、もういいわ。こうやって何でも屋さんにきれいなクリーム色に塗り直してもらったことだし。なかったことにしてあげるつもりなの」

出張から疲れて帰ってきてまで責め立てられたら、あの人だって嫌になるだろうし、と奥さんは溜息をついた。

「これでもか、ってご馳走を作ってあげることにするわ。あの人の好きなお酒も用意して」

そうしてあげてください、とにっこりしつつも、俺は内心考えていた。

──それはそれでコワイというか、旦那さん、疑心暗鬼になるんじゃないかな……? やっちゃった自覚はあるみたいだし、帰ったら妻に文句を言われると覚悟してたのに、ご馳走にお酒で歓待じゃあ、ナニか裏があるのかも? と戦々恐々としたりして。

案外、それが狙いかも。恐ろしい。くわばらくわばら。



喧嘩の原因は、卵焼きの味付けについて、だったらしい。奥さんがしょっぱい卵焼き派で、旦那さんは甘い卵焼き派。

……
……

食の好みの違いは、時に大問題を引き起こす。ことがある。お互いの歩み寄りが大切。うん。
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