第308話 ある年の黄金週間

文字数 1,458文字

・5月2日 黄金週間・兼六園菊桜

今年も、明日から本格的に黄金週間が始まる。

そして増える、ペットの世話、犬の散歩、旅行や帰省で家を空けるお宅の巡回見回り。大したことをするわけじゃないけど、日に一、二度、暇を見て見回るだけでも空き巣に対する抑止力になる。地域密着型の何でも屋として俺の顔はこの近辺ではよく知られているから、そういう意味で周囲の人に不審者扱いされることもないしな。

だけど、一応は近所の派出所に挨拶しておこう。毎年のことだけど、「黄金週間中、留守のお宅の周囲を歩き回りますが、顧客の依頼ですので不審者ではありません」ってひと声掛けておくだけで、色んなことがスムーズに行く。

──ああ、今年も公園の<兼六園菊桜>が立派に開花したなぁ。たくさんついてる花のひとつひとつが小さい手鞠みたいで、本当に可愛い。





・5月3日 黄金週間は大忙し

今日は五月三日、憲法記念日。黄金週間後半の、怒涛の連休初日だ。

いつもより多い犬の散歩を掛け持ちしつつ、合間に船松さんちと栗山さんちの庭の水遣り。このところずっと天気がいいから、うっかりするとせっかくの花が枯れてしまう。こちらの二軒はガーデニングに熱心だから、水遣りにも細かな指示があるから大変だ。

さて、次は三田さんちのお爺さんの様子伺い。息子夫婦と孫は海外旅行だ。お爺さんも一緒に行こうと誘われたらしいんだけど、「米のメシが食えんようなところにはいかん!」と言って留守番をしているとのこと。

うん、お爺さん元気。今日も庭で日課の素振りしてた。今でも乞われてたまに剣道場に指導に赴くというくらいだから、俺より体力あるかもしれない。息子夫婦が旅行前に大量に作って冷蔵庫に入れておいた料理を、きっちり三度三度レンジでチンして食べているというから、大丈夫だろう。

さてと、昼飯前に、お爺さんの様子を三田さんにメールしておくか。報告も依頼のうちなんだよな。


午後からは、買い物代行と、庭の草むしり。夕方からはまた犬の散歩ラッシュ。

ああ、忙しい。





・5月4日 黄金週間は多忙

今日も朝から犬の散歩。仲のいい犬同士だと二頭同時に連れて行けたりして楽なんだけど、今回預かってる犬たちだとそれは無理そうだ。

中でも、安曇さんちのミニチュア・ピンシャー、タロー君は気難しくて気を使う。幸い俺には馴れてくれたけど、家族以外の人間とよその犬は基本的に嫌いらしい。散歩中に他の犬に出会おうものなら、ほとんど洩れなく低い唸り声で威嚇する。

自分のこと、人間だと思ってるみたいなんですよね、と、飼い主の安曇さんも諦め気味だ。

よしよしよし、どうどう、と声を掛けながら、唸られた犬の飼い主さんに謝りつつ足早にその場を去る。

俺は犬に好かれやすいけど、こういう性格の子をどうすればいいのか分からない。一番いいのは、多分、専門のトレーナーさんに相談することだと思うんだけど、安曇さんにはそのつもりが無いようだ。

まあ、タロー君は唸るだけでケンカを仕掛けに行くようなことはないんだけど……心配なのは、唸って敵意を向けられたほうの犬の反応だ。虫の居所が悪ければ、向かってきたりするかもしれない。

……犬にだって、社会性が必要だからな。犬の礼儀を知らない犬は、他の犬に嫌われる。何とかならないものか……。

俺が考えたって、仕方が無いんだけどな。

ふう、ウ○チは終わったか、タロー君。後始末するからちょっと待って。よしよし、慣れた人間には愛想良くしてくれるんだな、うれしいよ。

さて、帰るか。

午前の犬の散歩はタロー君で終わり。次は春日さんちで障子張りだ。
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