第174話 柏餅の妖精さん 3

文字数 1,707文字

さっきまでとはまるで違うゆるキャラの動き。何が起こったのか分からず、微妙に焦る三人。──羽田さんもあたふたしてる。うん。こんな動き、羽田さんの振り付けには無かったもんな。

そんなそれぞれの反応を尻目に、俺は大袈裟な動きで顔(?)を覆った。そして、ふるふると着ぐるみの背中をふるわせてみせる。

「……か、<柏餅の妖精さん>が、泣いてる!」

ナイスフォロー! さすが羽田さんだ。

「この、よ、妖精さんは、柏餅の妖精なんだ。柏餅と名の付く、全てのものの妖精さんなんだぞ! なのに、君たちが自分の好きな餡以外の柏餅を否定するから、悲しくなってしまったんだ。三種類全ての柏餅を作った私だから、わかる!」

──こし餡もつぶ餡も味噌餡も、みぃんな同じ柏餅なんだぞ!

三人に向かってそう言い切る羽田さんは、俺のアドリブの意図を正確に理解してくれているようだ。有り難い。

さっきまでいがみ合っていた三人は、老舗和菓子屋の気迫に完全に気圧されている。

心の中で羽田さんのフォローに感謝しつつ、俺は俺で<柏餅の妖精さん>の役目を全うしよう。

泣いているポーズからゆっくりと立ち上がった俺は、プレゼント用柏餅の収められているケースから、こし餡、つぶ餡、味噌餡の柏餅をそれぞれひとつずつ取り出した。

そして。

こし餡柏餅をこし餡派のホネホネ男に。
つぶ餡柏餅をつぶ餡派のがっちり男に。
味噌餡柏餅を味噌餡派の一見常識人男に。

ふるふるゆらゆらしながらも、そうっと差し出す。雰囲気に呑まれたのか、素直に受け取る三人。

続いて、同じ順番で取り出した柏餅を、今度は一人ずつずらして渡していく。三度めも同じように。

結果、三人はそれぞれ全種類の柏餅を受け取ることになった。

「あー……」
「うー……」
「えー……」

意味不明の呻き声を上げる青年たち。それに構わず、三人の周りをくるくるゆらゆら踊ってみせる俺。くっ! 暑い。羽田さん、頼む!

「ほら、君らが選り好みすることなく三種類の柏餅を受け取ったから、<柏餅の妖精さん>がうれしそうだ。ほら、この袋に入れて!」

羽田さんが渡したお持ち帰り用の小さい袋に、三人は俺に持たされた柏餅を入れた。全員、無言。というか、声も出ないようだ。よし、畳み掛けるぞ。

俺は彼らの手を取った。そして半ば強引にみんなで輪を作るように持って行く。気分は幼稚園のお遊戯会だ。俺のリード(?)で時計回りにくるくる回ると、三人の手首に引っ掛けられた袋が、がさがさ音を立てる。

よし! このまま有耶無耶のうちに三人を煙に巻いたまま──俺はいつまでこのダンスを続けていればいいんだ。正気に戻られたら困る。だが、このままだと俺が着ぐるみの暑さで熱中症になってしまう。

と、その時。商店街放送というか、商店街BGMというかから、こどもの日の唱歌が聞こえてきた。ずっと流れてたんだろうけど、今の今までスコーンと抜けてて、耳に入っていなかった。これは天の助け!


 はしら~のきぃず~はおととしの~♪
 ごぉがつ~いつか~のせいくらべ~♪


ブンチャッチャ、ブンチャッチャ。三拍子に合わせてくるくる回る。チマキは無いけど、柏餅でガマンするのだ、青年たちよ。背の丈を測ってくれる兄さんがいなくても、君たちは学校の健康診断で背丈も計ってもらえるだろう。

元の買い物袋と柏餅のふくろをがさがさ、がさがさ言わせながらくるくる回ってる青年たちからタイミングよく両手を離し、離した手と手を繋ぎ直させる。これで君たちは仲良しさんだ。柏餅大好き仲間だ。<柏餅の妖精さん>である俺は、その場でふるふる身体を揺らしながら、彼らを祝福するかのように拍手をしてみた。

「<柏餅の妖精さん>の取り持つ美しい友情! さあ、引換券をお持ちのお客様、どうぞどうぞ、当戎橋心斎堂にいらしてくださいな。柏餅以外の商品も、本日は十パーセントオフ! この機会に和菓子はいかがですか~」

ちりんちりんと商店街的ハンドベル(福引の時なんかに使われるアレだ)を鳴らしながら、うまく纏めつつ自分の店の宣伝もする羽田さん。さすが商売人。
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