第206話 猫に毛繕いされる

文字数 1,769文字

・6月7日 英田の爺さんと蟹・

今日は午後から夜にかけて、日帰り出張に出かけた英田さんちのお爺さんの話し相手をした。英田の爺さんは少々まだらの気はあるが、滅法碁が強い。何戦もしたのに、二回しか勝てなかった。俺に格安でボロビルを貸してくれてる友人といい勝負が出来るかもしれない。

夜八時過ぎに帰ってきた英田さん、出張先は確か海の無い県だと聞いてたんだけど、何故にお土産が蟹? 季節外れだから、当然冷凍ものだけど。取引先の関係かな?

これもお土産の駅弁を三人で食べた後、帰りがけに「父と二人では食べきれないから」とお裾分けしてくれた。英田さん、いい人だ。

どうやって食べよう。今夜はもう遅いから、明日だな。蟹……うーん、調理法が鍋しか思い浮かばない。独り鍋は寂しいしなぁ。

ま、いいや。冷蔵庫に入れて、明日考えよう。





・6月8日 未だたこ焼き屋でなかった頃のシンジと蟹鍋・

蟹は美味かった。

昔、社員旅行で行った北陸の宿で食べたのには遠く及ばないけど、新鮮な状態で冷凍処理されたものは、やはりそれなりに美味い。

顔馴染みのチンピラ、シンジはカニカマよりもカニ缶よりもずっと美味い! と喜んでいる(その比較対照はどうかと思うが……)。独り鍋は寂しいんで声を掛けてみたら、手土産持参で来てくれたんだが、カニ鍋にビールとチーズ鱈はなかなか良いチョイスだと思う。

夏の鍋も、たまにはいいか。

シンジは最近、銀のアクセサリーを作って売っているらしい。ピンクチラシ貼りのバイトより、ずっと楽しいと笑っている。作品を見せてもらったが、なかなか器用だったんだな、シンジ。

おいこら、蟹を食べるのもいいが、野菜を食べろ! 豆腐も食え! 何? エノキ茸は苦手? 国産シイタケ高いんだよ。それで我慢しておけ。

はあ、なんかののかより手がかかるような気がする。

最後は雑炊で〆るんだから、飲みすぎるなよ。え? うどんがいい? 冷蔵庫に無いよ。わがまま言うんじゃない。

ったく。

ま、楽しいからいいや。





・6月某日 仏滅か…?・

俺は今まで、そういうことを気にしたことはないんだが……。

その1 
朝、散歩を頼まれた犬を迎えに行く途中、カラスに糞をお見舞いされた。

その2 
散歩を終えてさあ帰ろうという時に、いきなり雨が降りだしてずぶ濡れ。

その3 
側溝の金属製のフタが一部外れているところに足を突っ込んだ。……もう少しで捻挫するところだった。

その4 
昼飯にカップ焼きそばを食べようとしたら、カップラーメンだった。……湯を捨ててしまってから気づいた。湯は沸かしなおしたけど、麺が伸びて殺人的に不味かった。

その5 
午後、頼まれた買い物のメモを持ってスーパーに急いでいたら、どっかから植木鉢が落ちてきて、危うく脳天をカチ割られるところだった。

その6 
買い物帰り、スーパーのビニール袋が破れてしまった。……エコバッグを持ってて良かった。

その7 
雨の上がっているうちにと、頼まれた草むしりに勤しんでいたら、ハトの糞が落ちてきた。

その8 
コンビニで肉まんを買ったのに、齧ってみたらあんまんだった。

今日の暦は仏滅だ……。


禍福はあざなえる縄なれば……とか、人生万事塞翁が馬……とか、
とりあえず、そういうことにしておこう。うん。

はー……。





・6月10日  猫に毛繕いされる・

天気予報では今日も雨だということだったが、うす曇ながらも時々晴れたりして、当てにならないな、お天気お姉さん。

けど、今日は引越し手伝いが入ってたんで、雨じゃないのはありがたかった。それも、新居にまるまる引越しというんじゃなくて、転勤とともに両親と同居することになった息子夫婦の荷物を運ぶだけだったから、量もそう多くはなかったし。

で、まあ。仕事を終えて、今は縁側で冷たいお茶を一服いただいてるところなんだが。

こちらに長くお住まいの飼い猫、サバトラのカンちゃん、膝に乗ってくれると暑いんですが。それに、俺の腕をじゃーりじゃーり舐めないでくださいませんか? 毛づくろいが必要なほど毛深くないし、猫の舌はざらざらしてるので、じゃりじゃりされるたびにサンドペーパーで擦られてるみたいで痛いんですが。

喉を鳴らして、ご機嫌ですか。飼い主の小松さん、笑ってるし。カンちゃんが初対面の人に懐くのは、とても珍しいらしい。

ま、いいけど。カンちゃんかわいいし。暑いけど。

今日は大安。
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