第178話 お散歩猫

文字数 630文字

六月二十七日

今日はとても珍しい動物を散歩させた。俺の長い(?)何でも屋人生の中で初めての経験だ。

その動物自体は全然珍しくない。どこにでもいるし、どこででも飼われている。飼ってるわけじゃないけど、俺んち+アルファ(ボロビル)にも一匹いるしな。

そう、珍しい動物とは猫。猫は珍しくも何ともないけど、リードをつけて散歩をする猫というのは、物凄く珍しいんじゃないだろうか。

黒ブチの、どっからどう見てもその辺にいくらでもいる日本の雑種猫、さくらちゃん五歳。女の子。彼女は、犬の<母さん>に育てられたらしい。

飼い主の菱本さんによると、養い親になった<母さん>犬は、ベンという名の雄だったそうだ。気性は荒いが飼い主はに忠実な犬で、菱本さんの娘さんが拾ってきた目も開かない仔猫を、とても可愛がっていたらしい。

仔猫のミルクの時間になると、毎回菱本さんの顔をぺろりと舐めて、「わん!」とひと声鳴いて知らせたという。

子猫だったさくらちゃんもよくベンに懐き、大きくなってからはリードをつけて一緒に散歩に出るようになったらしい。

ベンは去年老衰で死んだそうだが、普段は座敷猫のさくらちゃん、すっかり散歩が日課になってしまい、雨の日でもリードをくわえて持ってきて、菱本さんに散歩をねだってくるらしい。

さくらちゃんは、猫らしくしっぽをピン!と上げて堂々と歩いている。小型犬の散歩と変わらない。

鳴き声は、「にゃあ」だけどな。

犬も猫も、ほんとうに色々だ。
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