第329話 手強くなった百円ライター
文字数 1,103文字
・8月29日 手強くなった百円ライター
今日は朝から気持ちのいい青空。
グレートデンの伝さんと、足取り軽く楽しく散歩した帰り道のこと。
「何でも屋さん!」
あれ、今井のお婆ちゃんだ。玄関から出てどうしたんだろ?
「おはようございます。どうしたんですか?」
「おはようございます。あのね」
そう言って差し出されたのは百円ライター。
「このライターね、昨日買ったばかりなんだけど──」
お婆ちゃんが言うには、最近買うライターのどれもこれもが壊れていて、火が点かないのだという。昨日買ったばかりのこのライターもやっぱり点かないけれど、考えてみれば新品で買ったものすべてが不良品というのもおかしな話。だから、本当に壊れているのかどうなのか、ちょっとだけ見て欲しいということだった。
「その大きなわんちゃんとお散歩行くのが窓から見えたから、そろそろ帰ってくるかと思って待ってたの。ごめんなさいね、仏壇に線香を供えるのに、毎回コンロで点けるのもなんだし、これがやっぱりダメならもう、マッチでも買おうかと思って」
受け取ったライター、見たところおかしなところは無い。ガスもちゃんと入ってるし……と考えながら親指でスイッチを押す。
「あら、点いたわ!」
でも力いるよこれ。
「ありがとう! 私のやり方が何か変だったのかしら」
俺がライターを渡すと、さっそくスイッチを押そうとするお婆ちゃん。明るくなった表情がみるみるしょんぼりとしてくる。
「……やっぱり点かないわ」
「これ、多分、今井さんの指の力だと、スイッチを押し切れないんだと思いますよ。俺でも固いと思いますもん」
そう。最近のライターは点火のスイッチ部分がやたら固い。もう一度受け取ってスイッチを押してみる。うん、やっぱり固い。
「まあ……」
しゅぼーと燃える火。スイッチから指を離すと消える。
「多分、子供の火遊び対策でしょうね。小さな子供の力では、点火出来ないように固くしたんでしょうけど……」
「年寄りの力でも火を点けられなくなっちゃったのね」
ほう、とお婆ちゃんは溜息をついた。
「諦めてマッチを買うことにするわ。ごめんなさいね、足を止めさせて。お詫びに、良かったらそのライターもらっていただけないかしら? 私が持っていても使えないんじゃしょうがないし」
「いいんですか?」
「ええ。火が点かない原因が分かってすっきりしたわ。もう無駄な買い物しなくていいもの。本当、何でも屋さんのお陰で助かりました」
ありがとう、とにっこり笑うお婆ちゃん。
その笑顔に俺も頷いて、ありがたく頂いておくことにした。
さて、待たせてごめんな、伝さん。飼い主の吉井さんちに戻ったら、朝ご飯だな!
「うぉふっ!」
よし、走るか!
「おんおん!」
今日は朝から気持ちのいい青空。
グレートデンの伝さんと、足取り軽く楽しく散歩した帰り道のこと。
「何でも屋さん!」
あれ、今井のお婆ちゃんだ。玄関から出てどうしたんだろ?
「おはようございます。どうしたんですか?」
「おはようございます。あのね」
そう言って差し出されたのは百円ライター。
「このライターね、昨日買ったばかりなんだけど──」
お婆ちゃんが言うには、最近買うライターのどれもこれもが壊れていて、火が点かないのだという。昨日買ったばかりのこのライターもやっぱり点かないけれど、考えてみれば新品で買ったものすべてが不良品というのもおかしな話。だから、本当に壊れているのかどうなのか、ちょっとだけ見て欲しいということだった。
「その大きなわんちゃんとお散歩行くのが窓から見えたから、そろそろ帰ってくるかと思って待ってたの。ごめんなさいね、仏壇に線香を供えるのに、毎回コンロで点けるのもなんだし、これがやっぱりダメならもう、マッチでも買おうかと思って」
受け取ったライター、見たところおかしなところは無い。ガスもちゃんと入ってるし……と考えながら親指でスイッチを押す。
「あら、点いたわ!」
でも力いるよこれ。
「ありがとう! 私のやり方が何か変だったのかしら」
俺がライターを渡すと、さっそくスイッチを押そうとするお婆ちゃん。明るくなった表情がみるみるしょんぼりとしてくる。
「……やっぱり点かないわ」
「これ、多分、今井さんの指の力だと、スイッチを押し切れないんだと思いますよ。俺でも固いと思いますもん」
そう。最近のライターは点火のスイッチ部分がやたら固い。もう一度受け取ってスイッチを押してみる。うん、やっぱり固い。
「まあ……」
しゅぼーと燃える火。スイッチから指を離すと消える。
「多分、子供の火遊び対策でしょうね。小さな子供の力では、点火出来ないように固くしたんでしょうけど……」
「年寄りの力でも火を点けられなくなっちゃったのね」
ほう、とお婆ちゃんは溜息をついた。
「諦めてマッチを買うことにするわ。ごめんなさいね、足を止めさせて。お詫びに、良かったらそのライターもらっていただけないかしら? 私が持っていても使えないんじゃしょうがないし」
「いいんですか?」
「ええ。火が点かない原因が分かってすっきりしたわ。もう無駄な買い物しなくていいもの。本当、何でも屋さんのお陰で助かりました」
ありがとう、とにっこり笑うお婆ちゃん。
その笑顔に俺も頷いて、ありがたく頂いておくことにした。
さて、待たせてごめんな、伝さん。飼い主の吉井さんちに戻ったら、朝ご飯だな!
「うぉふっ!」
よし、走るか!
「おんおん!」