第246話 霙は融けかけのかき氷に似ている

文字数 1,269文字

・3月10日 霙は融けかけのかき氷に似ている

昨夜から寒いと思ってたけど、今日はもっと寒かった。

朝は雨混じり。
昼は少しだけ雲が明るくなって。
夕方は霙。

霙、みぞれね。傘を差そうとしたほんの一瞬の隙をついて、びしゃっ、とデコに当たった。

痛冷たかった。

何ていうの? かき氷の緩いのを、ピンポイントでビシッと当てられたみたいな感じ?

そりゃ、カラスの糞なんかを頭にぼっとんされるよりはずっといいんだけど、微妙にココロが折れるよな、情けなくて。

……
……

いやいやいや、いかんいかん。いかんぞ!

そんなふうに考えてしまうのは、やっぱり寒いせいだな。よし!使い捨てカイロをもうひとつ奮発しよう。そうしよう。防寒をケチって、仕事のモチベーション下げるようなことしたらダメだよな。

寒くても、俺は頑張る!背中と腰にカイロを貼り付けて。
ま、動いてるうちに暖まってくるだろうけど。





・3月11日 三寒四温

今日も寒い。もう三月も半ばだってのに……毎年この時期は寒いのと暖かいのと極端だよな。「三寒四温」という言葉もあるくらいだから、そういうもんなんだろうけど。

寒いお陰で、灯油を買ってきて欲しいという依頼が三件ほど。無人給油所が近くにあるんだが、お年寄りにはやっぱり使いにくいみたいだ。

早く暖かくなるといいなぁ。

何でも屋としては仕事があるのはありがたいんだが、運搬手段が自転車しか無いんで、どうしても、ちょっとこう……。

自転車用のリヤカー、買うか。





・3月14日 晴れた空に翻る

朝から天気が良かったんで、今日は洗濯デー。明日の夕方あたりからまた雨だっていうし。

ドンちゃん(セントバーナード♂三歳)との散歩前に一回洗濯機回して干して、帰ってきてからも一回回して干して。

忙しいけど、晴れた空に翻る洗濯物を見るのは、また格別。

それにしても、俺のパンツって……派手だな。殆どが娘のののかからのプレゼントだけど。いつだったかの面会日、ここに遊びに来たののかに、取り入れたばかりで仕舞ってなかった洗濯物のパンツ、三枚千円のに穴開いてるの見つけられたのがマズかったよなぁ。

だけど……武将パンツはパパには派手すぎると思うんだ、ののか。





・3月16日 金色に匂う

昨夜の雨は物凄かった。まるで建物の真上にでかい滝が出現したかと思えるほど。耳につく轟音(安普請だからな、このボロビル)のあまり、眠れないかと思った。

寝たけど。

朝もまだ雨が残ってたけど、正午前から雲に隙間が。ちょっと晴れて、明るくなった。

樋掃除の依頼を受けて、折りたたみ梯子担いで歩いてたら、どこからか沈丁花の香りが。雨で空気が洗われた後だったからかな、なんか、いつにもましていい匂いに思えた。

はー、気持ちいい。

♪ジンチョウゲ ジンチョウゲ 金色に匂うよ 金色に あいしてる♪

んー、どっかでそんな歌の出てくる話、読んだような。金色に匂う、か。分からなくもないなぁ。



 ※ジンチョウゲの歌は、萩尾望都・著『エヴァンズの遺書』より。『ポーの一族』シリーズの一篇です。メリーベルとロジャーが歌ってました。<俺>は少女漫画も嗜んでいるようです。※
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