第353話 昏きより 5

文字数 1,634文字








ぽかり……と、目をあけたつもりなのに、何も見えない。
真っ暗だ。

カーテン越し、いつも下の街路灯の明かりがふわっと差すのが見えるから、この部屋は常夜灯いらずのはずなのに。

「……?」

変だな。街路灯、壊れたとか? 何にしても暗すぎる。明かりを……スイッチはどこだ? そうだ、枕元の携帯を……あれ? 身体が動かない? 指も、首を動かすことすら……。いや、そもそも──

身体は、あるのか?

……
……

俺、寝ぼけてるんだな。よし、寝よう!

……
…………?

何かが流れる音が聞こえる。水かな、風かな……。さらさら、……さらさら……しゃらしゃら……どこから来て、どこへ行くのか……


しゃらしゃらしゃら
さらさらさら

  めぐり来て めぐり来たりて めぐり往く
  陰陽の 光と影の 往き往きて めぐり来たりて 往く果ては
  果ての果てのその果ての そのまた果ての果ての果て
  たどり着いてはその先に 無尽の無限のめぐり来て 無窮の果ての遠ざかる
  そしてまたもやめぐり往く 

  留まることを許されぬゆえ

……
……

 
  もーし

  もーし

  もももしししももーし


「……」

うるさいな。俺、今日もくたくたになるまで働いて、眠い……。

 
  もーし
   ひのたまひかりのたまかえしてくだされ


「……」

火の玉? そういうのは寂れた墓場にでも行ってくれ。もしくはお化け屋敷


  ひのたまひかりのたま


えっと……、燐が燃えると火の玉になるらしいよ

  
  陽の玉光の玉


……俺そんなん知らない

 
  亡者にひとつ陽の玉を 亡者にひとつ光の玉を


……俺生きてるし

  
  生者には用の無きもの


勝手に持っていけばいいじゃないか

  
  返してくだされ 返してくだされ


何だよ……。俺、いつもニコニコ明朗会計な何でも屋さんだぞ。失礼なこと言うなよ

 
  ひのたまひかりのたま


だから、何なんだよ、それ

 
  陽狩りの玉


……? よけいわからない

 
  天照らす陽の光を追いかけて狩りもうした


光を、狩る?

 
  狩っても集めても すぐに散るすぐに散る


光だもの、そりゃそうだろう

 
  ああ、光を 陽の光をすべてすべて集めて


そりゃ無理だ。

 
  すべて集めて玉にして 吾のものにできたなら


お日様は独り占めなんてできないよ

 
  吾のものにできたなら


お日様はみんなのものだ

 
  吾の 吾のもの


誰かのものじゃないよ

 
  陽を狩って 狩って


狩らなくても、お日様はいつだってそこにある

 
  狩らねば暗い ああ昏い


夜は暗いに決まってる。明日になればまた明るくなる

 
  あな口惜しいや


なんでだよ

 
  吾だけ暗い 昏い 


思い込んでるだけじゃないの?

 
  吾だけ昏いは我慢ができぬ
  皆も暗くなればいい


何言ってるんだよ? お日様は皆のこともお前のことも同じように照らしてるはず

 
  暗いから狩る 陽を狩る


……

 
  狩って吾だけの陽狩りの玉を


わかった。そんな不心得な気持ちでいるから光が見えないんだ

  
  ……


朝になったら、ちょっと立ち止まって空、見てみろよ。曇でも明るいぞ

 
  夜は長い 永い


そういや、今日は冬至だった。一年で一番夜が長い。でも、朝は必ず

 
  吾は留まれぬ


え?

 
  陽を追いかけ (あした)を追いかけ 
  土塊(つちくれ)のあいだ 木の根のあわい 水の、風の影の裏を縫い縫いようやっと集めて狩り集めて


……

 
  凝らせた玉 陽狩りの玉 
  集めて繋いで留めておいたに 最後のひとつ 成就の玉を
  いつもどこかへ失って 吾の願いの叶わぬ 


……それは気の毒だと思うけど

 
  返せ 返せ


いや、だから知らないって

 
  半年掛けて集めたに 
  今日を逃せばまたすべての陽狩りの玉が散る 散る


よくわからないけど……

 
  ああ まためぐらねばならぬ ならぬ
  めぐり来たりて これが最後と思うたに まためぐり往かねばならぬのか


……

 
  さだめから外れることはできぬ 吾のさだめは吾の罪
  めぐり往き めぐり来たりて まためぐり往く
  ああ また半年

   昏きより昏き道にぞ入りぬべき
    昏きより昏き……






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