第274話 弁当忘れても傘忘れるな

文字数 1,111文字

・6月27日 夏のファストフード

蒸し暑くて、はっきりしない天気。

こんな日は食欲も無くなるけど、そうも言ってられない。夏バテするには早すぎる。頑張って仕事して稼がなくちゃ。娘のののかが成人式迎えた時、振袖の一枚も買ってやりたいし。

てなわけで。

昼は<冷やしうどん・ひきわり納豆の大根おろし添え>だ。海苔も散らしたいとこだけど、切らしてるからいいや。夏に本来冬野菜の大根おろしなんて、考えたら贅沢な時代だよなぁ。

今日は夕方、グレートデンの伝さんと散歩だ。伝さんは行儀のいい犬だから、そんなに体力使わないからありがたい。これが八木さんちのセントバーナードのナツコちゃんだと、毎回汗だくになるからなぁ。ナツコちゃん、奔放すぎる……ま、体デカくてもまだ一歳になってないから、しょうがないか。





・6月29日  開けちゃダメだ! 開けちゃダメだ! 眼を……!

まぶた、蚊に喰われた。

視界の隅に、黒くてでっかいのが飛んでるのが見える。ぷぃ~ん、ておい。一撃離脱ってか、いつの間に。さっき草刈りから帰ってきたばかりだから、服のどっかにくっついてきたのかもしれない。

それにしても、痒い。何だか腫れてきたような。蚊の奴の落とし前は後でつけてやるとして、とりあえず顔を洗おう。汗、落とさなくちゃ薬も塗れない。

しかし、場所はまぶた。沁みること請け合いだ。だけど痒い。掻いたらよけい腫れる。よし。眼をつぶって……薬指の先につけたキンカンを、慎重に塗りつける。

くぅ……効くぅ……。
今、眼を開けちゃダメだ!

涙目になりつつ、復讐を誓う。
蚊め。窓締め切って、蚊取り線香で燻してやる!





・7月4日 弁当忘れても傘忘れるな

降りそうで降らない。そう思っていたのに。

何だかさっきより急に暗くなったなぁ、と空を見上げた途端。パラパラパラッ、と雨が。そして、瞬く間に土砂降りに。

ふっ。今日は洗濯物、屋上に干さずに階段下の物干し場に干してきたからな。この間とは違う。

……俺はずぶ濡れだけどな。朝からはっきりしない天気だったのに、何で今日に限って雨具の用意してなかったんだろう。

ま、こんな日もあるさ。
うん。あるある。あるんだったら。





・7月6日 ヤモリは可愛い

風呂場の窓の向こうに、小さな黒い影。

 くにっ

「く」の字になったり。

 くなっ

逆「く」の字になったり。

細長い窓の向こう側いるのは、ヤモリだ。窓ガラスにぺたりと張りついた足の裏。指が全開で実にユーモラスだ。

 すすすすすっ!

お、獲物見つけたか? ヤモリよ。うちの居候には気をつけろよ。猫はお前みたいな小さい生き物が好きだからなぁ……捕まると、<可愛がられ>てしまうぞ?

あ。ヤモリの観察してたら茹だってきた。そろそろ風呂から上がろう。
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