第363話 2月1日。 今度は俺が風邪……? 終
文字数 1,377文字
風邪、すっかり全快かも。念のため、薬はちゃんと飲むけど。
昨夜、突然智晴がやってきた。インフルエンザはきっちり治ったらしい。そりゃそうか、一週間以上経つもんな。
「風邪引いたそうですね、義兄さん」
開口一番、決め付けモードの元義弟。何か、怒ってる?
「何で知ってるんだ?」
教えてないし。だって、ただの風邪だし。今回、軽そうだったし。
「情報が回って来たんですよ、えーと、そう、<彼>から。義兄さんには<風見鶏>と言った方が分かりやすいですね」
病院で診察受けたそうじゃないですか、智晴は続ける。──<風見鶏>というのは、ネットの海を自在に泳ぎまわる謎の情報屋だ。俺は彼の顔も知らない。けど、あっちは俺のことを良く知っている。で、智晴のことも知っている。
全く別のルート? で知り合ったんで、俺には<風見鶏>と名乗ってるけど、智晴にはまた違う名前を名乗っているらしい……ついでに、俺とよりはよく互いに連絡を取り合ってるみたいだな。
「体調が悪い時は、一応連絡下さいって<お願い>してあるはずですが? 身体が資本の仕事でしょう?」
うっ……。
「いや、大したことなかったし……」
「そう言いながら、高熱出すんですよね?」
今回はそんなことないって言おうとしたら、睨まれた。
「本当に、もう。あなたは僕の可愛い姪っ子のパパなんですから、しっかりしてくださいよ」
「はい……」
項垂れる俺。怖いよ、智晴。とてもプッチンプリンでインフルエンザを乗り切った男とは思えないよ。
「先日のお見舞いのお礼もありますしね。キッチン、借りますよ」
俺は張子の虎のように頷くしかなかった。ああ、智晴の背中が怒ってる……。
擦り切れたソファ(粗大ごみ置き場から拾ってきたやつだから、スプリングも今にも飛び出しそうだ)に居心地悪く座ってると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。つい、鼻をひくひくさせていると、盆を持った智晴が戻ってきた。
「中華粥です。栄養は満点。しっかり食べて、早く治してくださいね、風邪」
「あ、ありがとう。え、これ、今作ったのか?」
具が形もないくらい煮込まれた粥は、ものすごく美味そうだ。
「まさか。これはいわゆるお取り寄せグルメです。通販でね。僕もインフルエンザの時は重宝しましたよ」
油こくもないし、胃にやさしいですよ、と勧められ、添えられたレンゲでひと口すすってみる。
「美味い……」
ひと口、またひと口。気がつけば、どんぶりは空になっていた。
「ごちそうさま。何か、すごく栄養がついた気がする……」
うん。ひと口三百メートル、の域だよ、これ。
俺の感想に、智晴は微笑ったようだった。
「さ、薬のんでください。まだありますよね?」
ぬるめの白湯を渡され、医者の薬を飲む。促されて歯磨きをしている間に、欠伸が出てきた。って、俺は子供かよ。
いつの間にか湯たんぽの用意までしてくれていたベッドに横になると、すぐ眠りがやってきた。智晴はこの部屋の鍵を持ってるから、施錠の心配もしなくていい……居候の三毛猫に何か言ってるのが聞こえてきたけど、気にする間も無く俺は寝入ってしまったようだ。
ありがとう、と呟いたけど、智晴には聞こえただろうか。
身体の内側から暖かい。明日には、すっかり風邪は治ってしまってるだろうな。
夢に、白い割烹着姿の智晴が出てきた。寝入る前、一瞬浮かんだこの考えのせいだろうか。
……智晴、なんかオカンみたい。
昨夜、突然智晴がやってきた。インフルエンザはきっちり治ったらしい。そりゃそうか、一週間以上経つもんな。
「風邪引いたそうですね、義兄さん」
開口一番、決め付けモードの元義弟。何か、怒ってる?
「何で知ってるんだ?」
教えてないし。だって、ただの風邪だし。今回、軽そうだったし。
「情報が回って来たんですよ、えーと、そう、<彼>から。義兄さんには<風見鶏>と言った方が分かりやすいですね」
病院で診察受けたそうじゃないですか、智晴は続ける。──<風見鶏>というのは、ネットの海を自在に泳ぎまわる謎の情報屋だ。俺は彼の顔も知らない。けど、あっちは俺のことを良く知っている。で、智晴のことも知っている。
全く別のルート? で知り合ったんで、俺には<風見鶏>と名乗ってるけど、智晴にはまた違う名前を名乗っているらしい……ついでに、俺とよりはよく互いに連絡を取り合ってるみたいだな。
「体調が悪い時は、一応連絡下さいって<お願い>してあるはずですが? 身体が資本の仕事でしょう?」
うっ……。
「いや、大したことなかったし……」
「そう言いながら、高熱出すんですよね?」
今回はそんなことないって言おうとしたら、睨まれた。
「本当に、もう。あなたは僕の可愛い姪っ子のパパなんですから、しっかりしてくださいよ」
「はい……」
項垂れる俺。怖いよ、智晴。とてもプッチンプリンでインフルエンザを乗り切った男とは思えないよ。
「先日のお見舞いのお礼もありますしね。キッチン、借りますよ」
俺は張子の虎のように頷くしかなかった。ああ、智晴の背中が怒ってる……。
擦り切れたソファ(粗大ごみ置き場から拾ってきたやつだから、スプリングも今にも飛び出しそうだ)に居心地悪く座ってると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。つい、鼻をひくひくさせていると、盆を持った智晴が戻ってきた。
「中華粥です。栄養は満点。しっかり食べて、早く治してくださいね、風邪」
「あ、ありがとう。え、これ、今作ったのか?」
具が形もないくらい煮込まれた粥は、ものすごく美味そうだ。
「まさか。これはいわゆるお取り寄せグルメです。通販でね。僕もインフルエンザの時は重宝しましたよ」
油こくもないし、胃にやさしいですよ、と勧められ、添えられたレンゲでひと口すすってみる。
「美味い……」
ひと口、またひと口。気がつけば、どんぶりは空になっていた。
「ごちそうさま。何か、すごく栄養がついた気がする……」
うん。ひと口三百メートル、の域だよ、これ。
俺の感想に、智晴は微笑ったようだった。
「さ、薬のんでください。まだありますよね?」
ぬるめの白湯を渡され、医者の薬を飲む。促されて歯磨きをしている間に、欠伸が出てきた。って、俺は子供かよ。
いつの間にか湯たんぽの用意までしてくれていたベッドに横になると、すぐ眠りがやってきた。智晴はこの部屋の鍵を持ってるから、施錠の心配もしなくていい……居候の三毛猫に何か言ってるのが聞こえてきたけど、気にする間も無く俺は寝入ってしまったようだ。
ありがとう、と呟いたけど、智晴には聞こえただろうか。
身体の内側から暖かい。明日には、すっかり風邪は治ってしまってるだろうな。
夢に、白い割烹着姿の智晴が出てきた。寝入る前、一瞬浮かんだこの考えのせいだろうか。
……智晴、なんかオカンみたい。