第127話 携帯電話の恐怖 11

文字数 2,583文字

 風    野本君、リダイヤルはしたことないって言ってた
      から、それは大丈夫だと思う。

 風見鶏  賢明だったね。
      電話に限らず、ネットでもワンクリック詐欺とか
      あるから、君も気をつけるんだよ、風。

 風    う……
      分かってるよ。智晴にもきつく言われてるんだ。
      おかしな広告は無視しなさい、ネット上のボタン
      をクリックする時は、クリックして大丈夫なもの
      か、しっかり考えるように、ってね。



あいつ、元義弟のくせに、五月蝿いんだよ。

俺はつい<風見鶏>にボヤいてしまった。……智晴が、俺のためを思って言ってくれてるってのは分かるんだけどさ。



 風見鶏  ああ、それは彼の言う通りだ。
      下手なものをクリックすると、ブラウザクラッシ
      ャーどころじゃない被害を受けることになるよ?



う。痛いところを。

<風見鶏>のやつめ、文字を打ち込みながら、笑ってやがるに違いない。だけど、それがきっかけで彼と知り合うことになったんだから、世の中、分からないものだ。



 風見鶏  今回、野本君のために使った手は、もっとシンプル
      なものだ。

 風    どうやったんだ?

 風見鶏  これは普通のイタズラ電話にも役立つ方法だけどね。



チャット画面に、<風見鶏>打ち込む文字が踊る。



 風見鶏   海外を経由してくる怪しい電話番号に関しては、既
       に専門のブラックリストがある。彼宛てに発信さ
       れた通話の中に、そのリストに載っている番号が
       あった場合、彼の携帯には着信しないよう、自動
       的な操作を行った。

 風     そうか。変なやつが変な番号で野本君の携帯にかけ
       てきても、かからないようにしたんだな。ずっと
       話中とか、そんな感じ?

 風見鶏   いや、話中にはしないよ。ちゃんとお相手はする。

 風     お相手? あんたが?

 風見鶏   まさか。自動応答だよ。

 風     うーん。留守電みたいな感じかな?

 風見鶏   ま、ある意味、そうだね。
       色んなパターンを用意したよ。



<風見鶏>、何だか楽しそうだ。……だけど、<風見鶏>が楽しい時は、どこかで誰かが悲鳴を上げてるような気がする……。



 風見鶏   パターンその1は、オーソドックスに「般若心経」
       だ。掛けてきた相手が通話を切らない限り、延々と
       読経の声が流れる。

 風     そ、それは……



た、確かにオーソドックスかも。
パターン2は、じゃあどんな感じなんだ? 慄きつつも、俺は<風見鶏>の書き込みを待った。



 風見鶏  パターンその2は、延々と「あなたは神を信じますか?」
      と流れる。

 風    そ、そう来たか。

 風見鶏  パターンその3は、「呪いの番号にようこそ! この番
      号にかけてきたあなたは、三日以内に命を落とすこと
      が決まりました。おめでとうございます」

 風    こ、こわっ!

 風見鶏  パターン4は「You did it! did it!」が延々と……。

 風    も、もういいよ。そりゃ、いくら悪党でもかけてこなく
      なるわ。



知り合いの携帯にかけたつもりで、うっかり間違えた番号でそんな言葉が聞こえてきたら、俺、ちびるかも……。



 風見鶏  パターン5はとっても可愛いんだよ。知りたくない?

 風    えーっと……



か、可愛い? <風見鶏>が可愛いって……。怖い。何か、物凄く怖い。今の流れからしたら……。

「ウシガエルの鳴き声が延々と」とか「猫の威嚇の声」とか「真夜中の森の物音」とか「声は可愛いいけど言ってる内容がコワイ」とか……(管理人記:もっとエグイことを考えてしまいましたが、この話とは雰囲気が合わなさすぎるので、やめておきます……)。

俺がぐるぐる考えている間に、<風見鶏>の書き込みがパッと現れた。



 風見鶏  知りたいよね? 教えてあげる。

 風    いやいやいや! 知りたくないから!

 風見鶏  どうして? 童謡のメドレーだよ。可愛いでしょ?

 風    童謡?



<風見鶏>が、童謡? ──俺が動揺したよ。



 風見鶏  そう。「かわいいさかなやさん」とか、「青い目の
      お人形」とか「くつがなる」とか「赤いくつ」と
      か「あの子はたあれ」とかね。



うーん……それは可愛いかもしれない。



 風見鶏  敢えて「昔風」というか、よく歌われてた当時の歌声
      に近づけたのが、僕の拘りかなぁ。

 風    そ、そうか……。



ピッチとかトーンとかも色々弄ってみたんだよね、と何だか誇らしそうな<風見鶏>に、俺はそれ以上のことは言えなかった。

……そういえば、どっちかというと甲高い、けど、子供にも分かりやすい滑舌というか、発音だったなぁ。あの頃の童謡って。子供の声は本来甲高いから、小さい子には歌いやすいメロディなのかもしれない。



 風見鶏  本当言うと、今のところ、パターンは10くらいまで
      あるんだ。でも、まあ、これくらいにしておくよ。君
      を怖がらせても仕方ないしね。

 風    ったり前だろ。
      俺は野本君にイタ電も変な勧誘電話もすること無いん
      だから、全部知ってもしょうがないよ、そんなん。

 風見鶏  ま、そうだよね。
      目的は不埒な電話業者の撃退なんだし。


 風    野本君は「最近はそういう変な電話はかかってこない」
      って言ってたけど、あんたの設定した「水際」では、
      実際減ってはいるのか?

 風見鶏  うーん、それがね……。

 風    効果、無いの?

 風見鶏  どうだろう。ありすぎる、っていうのが正しいかも。



ありすぎる? どういうことなんだろう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み