第234話 喚いても、こむら返りは治まらない

文字数 1,779文字

・4月16日 喚いても、こむら返りは治まらない・

薄いカーテンの向うが、ごくごくうっすらと白む頃。
ぽかり、と目が覚めた。

あれ? 何でだ。トイレ行きたいわけでもないし……などと思ってる間に、来た来た来たァ!

「~~~~~!!!!」

あまりの痛さに声も出ない。いや、出しちゃいけない。でないと、喚いてしまう。それくらい、痛い。

こむら返りだ。

右足の脹脛が、ありえないくらい引き攣ってる。ぐぅっと凹んでる筋肉。動けない、動かせない。汗ばみ震える手を伸ばし、やっとのことで右足親指を掴む。反らせるように引っ張ってみるも、効果無し。

「#%&*△□※αΩ~~~~!!!」

耐える。ただ、じっと耐える。

来た時と同じに、唐突に痙攣が去った。ようやく息をつく俺。残る鈍痛。額にじっとりと汗が浮かぶ。多分、一分にも満たない時間だったんだろうが、永遠に続くか思ってしまった。大袈裟だけど。

「……」

無言で足をさすりながら、思う。寝てる間にこむら返りになる時って、何でいつもその直前に目が覚めるんだろう。何度も経験した地獄の痙攣だが、始まってから目が覚めたことは皆無だ。

しばらくして、ようやく落ち着いた。ついでに、眠くなった。そりゃそうだ、起床時間まではまだ数時間ある。俺は速攻枕に懐いた。

寝坊した。

すまん、伝さん。急ぎたいけいけど俺、今朝は走れない。自転車で行くから、ちょっと待っててくれ。





・4月17  紛らわしい!・

梅、桃、桜に始まって、連翹、木瓜、木蓮、雪柳などが咲き乱れ。今は花水木が満開だ。木蓮の花が白い鳥なら、花水木は白い蝶だと思う。たまにピンクなのもあったりして。

今、草むしりしてる野坂さんちの庭にも立派な花水木の木がある。ゆっくり花見してる場合じゃないけど、そろそろ十時のお八つ時。休憩するか。

持参のペットボトルからお茶を飲む。中身は今朝自分で入れてきた。節約、節約。風に揺れる白い花(本当は花びらじゃなくてガクらしいけど)を見上げつつ、しばしぼーっとする。

ん? 幹のところにも花が?

健気だなぁ、こんなに一所懸命咲いて。
そんなふうに思いつつ、少しだけ指先で触れてみる。

触れて、みる。

花だと思ったものは、蛾だった。触れた途端、ぱたぱたと飛んでいく、白い燐粉を撒き散らしながら。

紛らわしい奴め!

……俺、昆虫の中でも、ゴ○ブリの次くらいに蛾が嫌いなんだ。軍手してて、良かった。





・4月20日 八重桜の花房は・

このコンビニに入ったのは、ツナマヨとシャケのおにぎりを買おうと思ったからだった。

それなのに、つい目に付いたオリジナル和菓子に手が伸びた。いや、でも三つも入ってるし、それなりに腹ふくれるかも。

何でそんなつもりになったのかと軽く考えてみれば、昼飯買いに来る途中、民家の塀の向こうに見えた見事な八重桜の、そのぽってりと俵型した花房。あれが、あれが似てると思ったんだ。

桜餅に。

それに気づいたら、何か猛烈に食べたくなってきて。でも我慢しようと思ってたのに、このコンビニ、洋菓子和菓子の品揃えが豊富だってこと忘れてた。

ピンクの餅を包む、桜の葉っぱの香りを思い出したら……うをを、腹が鳴る。

今日の昼飯は桜餅で決定。





・5月13日 トマト葉っぱプランターに憚る・

雨が降るのか降らないのか、曖昧な天気だったけど。昼間の予定が少し開いてたんで、屋上プランター菜園にミニトマトの苗を植えることにした。

商店街はずれの園芸店で、活きのいい苗を選ぶ。普通? のミニトマトの他に、黄色いのやら黒いのやら、色んなのがあってびっくりした。去年は気づかなかったなぁ。

普通サイズのトマトもあったけど、プランターだとミニトマトの方が育てやすいんで、初心貫徹。いかにもミニトマトなプチトマト(同じじゃないのか)を選んだ。

で。プランターにそれを植えようとしたら。

今年はまだ何も植えてないはずの土に、買ってきたのと似たような葉っぱが出てる? あれ? 匂いをかいでみたら、なんと、紛うことなきトマトのかほり。

これは……去年育てたやつの種が残ってて、いつの間にか芽を出してたんだな。今日まで気づかなかったなんて、俺ってマヌケ。それにしても、たくましい。買ってきた苗と一緒に、これも大切に育てよう。

赤くて丸い実がたくさん成ったら、今年もののかと収穫するんだ。

たまにしか会えないけど、お前と過ごす時間を楽しみに、パパは今日も頑張るぞ!
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