第243話 日本人ならやっぱり畳!

文字数 2,070文字

・11月19日 ひとりカラオケは寂しい……。

「ひとりカラオケ」は嫌だけどカラオケ行きたい、という依頼を受け、昼間歌い放題のカラオケボックス行って来た。

依頼人の和久井さん、休みが不規則なので、友達と遊ぼうにも予定が合わないという。

「ストレス解消したいんだ!」

拳を握り締める和久井さん、……お疲れなんですね。分かりました、心をこめておつき合いいたしましょう。

チャゲアスですか。まあ、何とかなるでしょう。
銀恋? 渋いですね。
エグザイル? すみません、一曲くらいしか知らないかも。
スマップ……知ってる歌も、あるかな?
ぱひゅーむ……? ちょっと難しいと思います。
愛国行進曲? 古っ! いや、大丈夫です。大学時代、教授と歌ったことがあります。
モンテンルパの夜はふけて、って、お若いのに、良く知ってますね。

最後は『マイ・ウェイ』を歌い上げた和久井さん、ご満足いただけましたでしょうか。

……二人で三時間も歌っちゃったよ。俺、喉枯れそう。和久井さんは余裕だけど。本当に好きなんだなぁ。

俺は次の仕事があるので、店の前で別れた。和久井さんは鼻歌を歌いながら上機嫌で帰っていく。

けど。

何でそこで『誰も寝てはならぬ』(だったかな? フィギュアスケートの曲に使われてたから、俺でも知ってる有名なオペラ?の曲)なんだろう。彼のレパートリーの広さは、謎だ。





・11月23日 下僕デビュー?

寒いからか、俺のことを信用するようになったのか。

このところ、居候の三毛猫は夜になると必ず部屋の中にいる。俺が帰ってきてドアを開けると、するりと中に入ってくるんだ。しかも俺がそれに気付かなかったりするから、すごくびっくりする。

で、勝手にソファの上で寝てたりする。油断すると膝に乗る。ついでに俺の湯たんぽを奪う。

しょうがないので、やつ専用の湯たんぽを奮発してやることにした。

ソファの隅に古毛布を丸めて、中に湯たんぽをセット。やつの寝床を作ってやる。

お気に召すといいんだが。

ああ、俺はいつからこいつの下僕に……。





・11月24日 猫は好きなとこで寝る

昨夜、ちゃんと湯たんぽ入りの寝床を用意してやったのに。

三毛猫のやつ、朝起きたら俺のベッドの布団の中で丸くなってやがった。いつの間に入ってきたんだ。

むっ、としつつ追い出して、顔を洗いに行く。コーヒーを入れるのに湯を沸かしながらふと見ると、今度はちゃんと自分の寝床に潜り込んで気持ち良さそうに寝てた。

最初からそこで寝てればいいのに、三毛猫め……毛がつくんだよ、毛が!

ああ、今朝は霧が深い。窓から見た世界が真っ白だ。こんなこと滅多にないんだけどな。お日様が顔を出せばすぐ晴れるだろうけど、なんだか怖いくらいだ。そういやあ、霧をモチーフにした怖い映画があったっけ……。

つるかめつるかめ。





・12月9日 日本人ならやっぱり畳!

リフォーム前の家具移動の手伝いに行って、畳二枚もらってきた。なんでも、一部屋だけフローリングにするんだそうだ。

俺の住んでるボロビルは、遠目から見た軍艦島にも負けず劣らずな完璧コンクリート打ちっ放し。つまり、本当に打ちっ放しで放ってある。それを安く貸してもらってるんだけど。

夏は暑いし、冬寒い。

夏は、熱射病で死にかけたしな。……あの時は、元妻にも、娘のののかにも、元義弟の智晴にも散々怒られたっけ。

冬の寒さは、ずっと足元だけの薄いカーペットと湯たんぽでしのいできた。けど、冷える。本当に冷える。熱射病の時、大家がエアコンを新しいのに取り替えてくれたから使えばいいんだろうけど、もったいないし。いや、さすがに風邪引いた時は使ったけど。

ということで、畳だ。憧れの畳だ!

ま、リフォームなんて大それたことする予算もないんで、ボロソファとテーブルをちょっと動かして、部屋の隅に畳二枚分の空間を確保。コンクリートの上にすのこを置く。すのこの上に断熱材代わりのエアークッションシート(ぷちぷちを潰すのが楽しい、あれだ)を二重に敷いて、畳をセット。これで簡易の和室(?)の完成。

うおー、畳だー!
思わず、敷いたばかりの畳の上でごろごろする。……うっかりすると、転げ落ちそうになるな。気をつけないと。

後は。

こたつだ。こたつに入ってみかんを食べてごろごろするんだ。これぞ、日本の冬!

さあ! ホームセンターに安いこたつを探しにいくぞ! いや、商店街の電気屋さんにも掘り出し物があるかも。俺、今、すっごいウキウキしてる。

我ながら単純だと思うけど、ハッピー気分だからどうでもいいや!





・12月11日 銀杏色の雨

降ったり止んだり冬の雨。

道路一面に散り敷いた銀杏の葉が、金色の絨毯みたいでとてもきれいだ。いつまでも眺めていたくなるくらいに。

うん。ホント。

落ち葉かきをしなくていいんだったらな。

竹箒を抱え、俺は思わず溜息をつく。始める前から戦意喪失。水を含んだ落ち葉ってのは、重いんだよ。雄株ばかりだから、あの強烈な実の臭いをかがなくていいことだけが救いだ。

今日の雨で、葉は全て落ちた。ここの落ち葉かき、今日さえ頑張れば今年の分は終わりだ。がんばれ、俺。負けるな、俺。
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