第343話 手々噛むイワシは獲~れ獲れ

文字数 702文字

・6月12日 手々噛むイワシは獲~れ獲れ

毎年、この季節になると。

 いわっしや いわっしや いわっしや

商店街の魚屋さんから聞こえてくる、威勢のいい呼び込み。

 ててかむいわしや とれとれやで~!

群がるお客の注文に応じて次々にビニール袋に入れられるイワシは、ビッカビカのぎんぎらぎん。呼び込み文句の通り、今にも手を噛みそうなくらい獲れたての新鮮さ。

「大将、イワシ十二匹お願いします!」

「お? 何でも屋さん、岩松爺さんのお遣いか?」

袋に手早く詰めて渡してくれながら、大将が言う。

「はい。なんか、今年はイワシのてんぷらと、つみれをつくるらしいです。生姜と青紫蘇も頼まれてて」

「年くってから料理し始めたら凝るっていうしなぁ。あ、つみれと青紫蘇を餃子の皮に包んで揚げても旨いで!」

「ありがとうございます。提案してみます」

この魚屋の大将は、料理のちょっとしたアレンジを教えてくれたりもするので、実は密かな人気がある。スーパーの鮮魚コーナーより、少しだけ足を伸ばしてこの店に来るお得意さんも多い。

女将さんに代金を渡してお釣りをもらう。そこでちょっと客が切れたみたいで、また大将の呼び込みが始まる。

 いわっしや いわっしや いわっしやで~! 手々噛むイワシや、獲れ獲れやで~!

その声に釣られてまた人が来る。

日ごろ近隣のスーパーや大型店に押され、この商店街もちょっと寂しいけど、魚屋に限らず、たまにはこんなふうに活気を取り戻すこともあるから、買い物を頼まれる俺としてはうれしくなってくる。

今日は鬱陶しい天気だけど、岩松爺さんは俺にもイワシ料理を振舞ってくれるというし、なんか元気になれそうだ。

ののか、パパ、今日も頑張るからね!
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