第312話 事故を目撃

文字数 906文字

・6月2日 目撃の衝撃は後から来る

ああ、今夜も熱帯夜。

湿度が低いからか、ベットリとした暑さを感じないのが幸いだけど、まだ六月入って二日目だというのに、どうしてこんなに暑いんだ。

寝にくい。てか、眠れない。

あっち向いたり、こっち向いたり。寝返り打つたび、この安物のパイプベッドが軋む。昨夜の方が暑かったけど、眠れた。なのに今夜はどうしてこんなに眠りが遠いのか。タオルケットを蹴り飛ばしながら思わず唸ってしまう。

……ああ、そうか。今日は事故を目撃してしまったんだった。

側道から大通りに入る前、一旦停止を守って止まっていた軽自動車に、後から来た大型車が追突したんだ。ちょうど、その向かい側の側道から大通り目指して歩いていた俺は、それを正面から見てしまった。

止まっている軽自動車に、大型車のぶつかるあの音。

幸い、大型車は大通りに入る前だから減速はしていた。だから追突された軽自動車の後部は派手に凹んだけど、運転してた女性は無事だった。大型車の方も同様。ま、大型車は鼻が長い(前方部分が軽自動車に比べたら長い)から、軽自動車より本体にダメージ少ないと思う。

だけど、軽自動車を運転してた女性は、ムチウチくらいにはなってるんじゃないかな……。

双方のドライバーとも、車内で茫然自失って感じだったけど、俺が慌てて大通りを渡り、事故車両に近づいて、「大丈夫ですか!」と声を掛けたら降りてきた。それから警察呼んで……俺は事故の瞬間をばっちり見てた目撃者として証言をしたんだ。

まあ、何だ……色々疲れた。

俺は仕事先に行く途中だったから、連絡先だけ教えてそのまま猪沼さんちに向かった。組み立て式本棚の組み立てを頼まれてたんだ。

そっから簡易棚の調整やったり、頼まれた買い物しに行ったり、犬の散歩や子供の塾の送り迎えをしたり……で、帰って晩メシ食って風呂入って寝て。

はぁ……。

すごい音だったよな、車のぶつかった音。ガッシャーンとか、ドシャッとか、とにかく普通では聞かない音だ。思い出すと落ち着かない。

──ああ、俺は恐ろしかったんだな。ただの目撃者に過ぎないにしてもさ。

ふう……。トイレでも行ってみるか。気分転換したら眠気を感じられるかもしれない。
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