第316話 いそべあべかわもちねこ

文字数 743文字

・6月14日 居候猫のアンブッシュ

今日も一日分の汗を流して、湯船を満喫し(狭いけど)、ふひー、とか言いながら折り畳み式の戸を開けたら。

ものすごく不自然に盛り上がった足拭きマット。
端っこから見える、白地に大部分黒、一部に茶の混じった尻尾。

……待ち伏せ?

居候の三毛猫め、かまって欲しいのかな。
それとも、丸分かりだろ、って突っ込んで欲しいのかな。

足拭きマットの小山は、ぴくりともしない。

……
……

タオルで身体を拭いて、足を踏み出したいけど、さてこの小山をどうしようか。

しばし考えた後。スルーすることにした。





・6月21日 夏至の日に思う

今日は六月二十一日。夏至。
……あの年の一年で一番長かった日のことは、今はもう幻のように思える。

亡き弟と交わした<会話>は今も覚えているけれど、思い出そうとするとふわふわと霞がかかってしまう。

笑い仮面に、芙蓉と葵の双子、ドラッグ<ヘカテ>に、インターネットの海に浮かぶという<ヴァルハラ>……。

……
……

そう、今日は夏至だ。あの日と同じ、けれどあの日とは違う薄曇りの──





6月22日 餅猫


夕方からの雨で急に肌寒くなった夜。こんな時は風呂だ、暑くても涼しくても風呂だ。風呂はサイコー! と鼻歌歌いながらドアを開けたら。

蓋の上で

びろーん、というか。
べとーん、というか。
どとーん、というか。

餅のようにとけてる居候の三毛猫。ヤツの柄は白面積大目で、黒茶面積同じくらい。

この感じ、磯辺焼きか? あべかわか?
強いて言うなら……。

いそべあべかわもちねこ。

とけた感じがちょっと美味そうだけど、けっこう毛だらけ三毛だらけ。蓋の上には抜け毛がいっぱい。やっぱり気のせい美味そうじゃない。

こら、そんなとこで熟睡すんな舌仕舞え。触るぞ、居候。いつの間に入りやがった。

俺は風呂に入りたいんだ!
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